●神野直彦著『財政のしくみがわかる本』/岩波書店/2007年6月発行
若年層向けに刊行されている岩波ジュニア新書の一冊で、財政の入門書としては実によくまとまっていると思う。財政を語っている大人だって充分にその基本を理解しているとはかぎらないので、その意味では誰にでも推奨できる本である。 財政とは何か、から始まって、予算や租税の基本概念、歳出の歴史的変化、財政における借金の意味、国と地方との関係などについて概説した後、現在、日本の財政が抱える課題を指摘し、今後の財政のあり方について著者の展望や見解が提起される、という内容である。 財政の基本的役割に関する本書の説明は、極めて明快である。 著者は人間の欲求を「ニーズ」と「ウォンツ」とに大別したうえで、それが欠けると人間が生存するのが困難になる「ニーズ=基本的必要」を財政が受け持ち、際限なくふくれがっていく「ウォンツ=欲望」は市場にまかせる、というものだ。 もちろん、両者の中間にあるような欲求については一部市場原理を導入して残りを公金で負担する、という形もありうる。 ニーズに見合った財政を展開していくためには徹底した地方分権が必要である。 わが国では、これまでいかに地方行政が中央政府の統制下にあったか、機関委任事務や補助金などの制度をあげて説明した後、著者はヨーロッパ的な本来の意味での地方分権の重要性を力説する。また地方債関連の問題については「地方自治体が共同発行する地方金融公庫」の創設を提案しているのが注目されよう。 今日の財政上の大きな問題点としては、よく議論の対象になる「財政赤字」よりも、公共サービスの民営化などによる財政の所得分配機能の弱体化など他の問題点を指摘している点に、著者の考えが凝縮されているように思える。 「小さすぎる政府」が「大きすぎる赤字」をかかえこんでいることも問題なのですが、「小さすぎる政府」がさまざまな社会的な危機現象をおこしていることのほうが、日本の財政の大きな問題だといえます。(p173)
by syunpo
| 2008-04-17 18:53
| 政治
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