●寺脇研著『官僚批判』/講談社/2008年4月発行
近頃の「官僚批判」のなかには、「批判」の域に達していない、感情的でヒステリックなバッシングも少なからず含まれていて、私はそのような風潮には些か危惧の念をおぼえ、いたずらに世の反官僚言説に加担する気持ちは毛頭ないのだけれど、本書については残念ながら批判の矛先を元官僚である著者自身に向けざるをえない。 これは、文部科学省で「ゆとり教育」のスポークスマン役として活躍し、映画・落語評論でも有名な元官僚の回想記ともいうべき本であるが、まえがきの後半部分、官僚の「フェアネス」について力説しているくだりで、早くも脱力してしまった。 「(官僚は)ひとたび判断を下したなら、いかなる立場の人から批判されようとも、外国からの圧力を受けようとも、その判断を覆すことはできないというフェアネスな姿勢を貫くべきである」と断言しているのだ。他の官僚に比べれば民間人との交流も広く、少しは開明的だろうと期待もしうるこの人物にしてからが「官僚の無謬神話」の呪縛から免れることはできないのか。自信をもって下した判断ならば、それを貫き通すことこそ「フェアネス」だというなら、国民にとってこれほど迷惑な「フェアネス」はない。そもそも官僚が最初に行政判断をする時にどれほどの「フェアネス」が担保されているのか、そのことを多くの国民は疑っているのだ。そんな基本的な認識すらもたずに「官僚批判」と題する本を書くのだろうか? 何とか最後まで読み通したのだが、全体としては、日本の官僚制度や行政の歪みの一端を知る上で少しは有益な本かもしれない、との印象をもった。 たとえば、会場費一億五千万円、管理費五千万円、宣伝費一億円、肝心のイベントの中身の予算がゼロ、という倒錯したイベント(生涯学習フェスティバル)に辣腕を振るった話など、当人が無邪気に書いているぶん官僚の病理現象が浮きぼりになる。 深刻なのは、冒頭でわざわざ憲法の条文を引いて「公務員は国民全体の奉仕者」であることを強調しているのにもかかわらず、本文の記述では自身の失敗や力不足を論じるに際して、詫びたり弁明したりする相手がもっぱら役所の上司や部下、地方の教育委員会関係者など身内ばかりという点だ。著者の検証や回顧の中にあっては、見事なほどに「国民」が不在なのである。 その意味で、著者自身が自己批判的に行なっている「官僚批判」には何ら新味は感じられなかったものの、著者が無自覚に筆を運んでいる記述にこそ読者からの「官僚批判」を受ける種が蒔かれている、という本である。
by syunpo
| 2008-05-28 19:04
| 政治
|
Comments(1)
Commented
by
N.M
at 2009-08-17 22:56
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国民を愚民化する官僚政治を、どのようにも擁護できません。
政権交代は必要です。 「『おバカ教育』の構造」(阿吽正望 日新報道)を読みました。 これ程までに、日本の教育が破綻し腐敗しているのかと驚きました。不登校、引きこもり、ニートが生まれ、犯罪者が続出するのは、教育システムが腐敗しているからです。 知識社会と言われる現代、教育こそが、最大の成長戦略であり、雇用対策です。文科省官僚の無能と腐敗は、言い訳のしようもありません。まさに国賊です。 是非、読んでみて下さい。 腹の底から官僚への怒りが湧き上がってきます。
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