●藤田英典編『誰のための「教育再生」か』/岩波書店/2007年11月発行
自民党政権下で進められている「教育再生」改革を批判的に検証した本である。具体的には、全国一斉学力テスト、教師に対する管理・統制の強化、ゼロ・トレランス政策、学校選択制、教育現場における「心の支配」……といった問題が批判的に論じられている。執筆者は、藤田英典、尾木直樹、佐藤学、喜多明人、中川明、西原博史。 日本の行政は、教育行政にかぎらず政策そのものについてその効果や成果を科学的にシミュレーションしたり、検証したりする機運に乏しい。ここでも、官邸主導の一連の改革がいかに合理的根拠に乏しいものであったかが具体的に指摘されている。たとえば、二〇〇三年に教員免許更新制を見送って十年経験者研修を導入したばかりなのに、その政策評価も満足に行なわれることなく、更新制の導入を強行した点にそのいい加減さが象徴的にあらわれている。 全国一斉学力テストの弊害についても具体的な報告がなされているほか、少人数学級の導入が必要な予算措置のないなかで行なわれることによって、教育の質のレベルダウンが生じている、という指摘なども意外と知られていないことではないか。 国家主義的な統制の進む教育現場の動きに対する批判的論考のなかには、いささか紋切り型の記述もみられるけれど、感情的な学校・教師バッシングが渦巻く状況下で、そうした俗情と結託する形で進められている一連の教育改革について再考するには有益な本といえる。 引用されているグラッペンの「教育は個人の自由にとって最大の恵沢である。しかし、同時にまた、個人の自由にとって潜在的に最大の脅威である」(p166)という言葉が印象に残った。
by syunpo
| 2008-06-21 19:31
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