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変貌する都市への批評的な眼差し〜『往復書簡 いつも香港を見つめて』

●四方田犬彦、也斯著『往復書簡 いつも香港を見つめて』(池上貞子訳)/岩波書店/2008年6月発行

変貌する都市への批評的な眼差し〜『往復書簡 いつも香港を見つめて』_b0072887_17324229.jpg 香港出身で小説家・詩人・写真家として活躍する一方、嶺南大学教授として比較文学・創作講座を講じている也斯と四方田犬彦との往復書簡を一冊にまとめた本。
 香港と東京の都市文化と歴史的記憶、文化的階層性などを比較文化論的に論じあうという趣旨で始まった往復書簡だが、世界各地を駆けずり回っている二人にふさわしく、話題はあちらこちらに広がっていき、多様な内容になっている。

 四方田の都市文化論は、もっぱら也斯に対する啓蒙的な色合いの強いものながら、日本人が読んでも知的刺戟に満ちたものだ。たとえば月島佃島の歴史に関する記述(「島とフェリーボート」)は、アジアにおける「差別」問題の再検証を迫って興味深いものだし、江戸や京都における神話的起源の解体と浄化をめぐる解説(「皇帝と国家に抗して」)も秀逸だ。また、日本の一連の教育改革で漢文の読解能力が大学入試の科目から外されたことを、漢籍に通じていた上田秋成を引きあいに出して「文化ナショナリズム」の観点から批判しているのもいかにも四方田らしい認識に基づいたもので面目躍如たるものがある。

 対する也斯の香港レポートも、文学や政治的運動などについて香港の歴史や昨今の動向を詳しく伝えていて、カンフー映画やグルメ、「百万ドルの夜景」といったステレオタイプに収束しがちな日本人の香港像に新たな視座を提供するものとして教えられるところ大であった。
by syunpo | 2008-08-23 17:35 | 文化全般 | Comments(0)
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