●姜尚中著『姜尚中の青春読書ノート』/朝日新聞出版/2008年4月発行
数多の出版社が入り乱れて百花繚乱の新書市場、そのなかで姜尚中は重宝されている執筆者の一人だろう。本書は朝日カルチャーセンターでの連続講義をもとに大幅に加筆修正をほどこしたもので、著者の青春時代を彩った五冊の書物について六〇〜七〇年代当時の時代背景を織り込みながらいかに自身の内面形成に深く関わったかを縷々述べるという趣向である。 取り上げられている本は、夏目漱石『三四郎』、ボードレール『悪の華』、T・K生『韓国からの通信』、丸山眞男『日本の思想』、マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』。 近頃の新書全般に感じられる「お手軽に作った」という印象は拭えないものの、話し言葉がベースになっているので読みやすく、姜の愛読者であれば充分楽しめる内容といえるだろう。 第1章で『三四郎』の主人公とみずからを重ね合わせながら、青春時代の煩悶にからめて吐露している漱石への共感がその後の記述にも通奏低音のように響いていて、漱石の今日的読解への道標ともなっているのが本書の特色の一つといえようか。 丸山眞男やウェーバーが登場するのは至極当然だと思われるが、ボードレールに一章を充てているのはやや意外な感じがした。が、鬱屈とした思春期の読書体験としてフランス一九世紀のデカダンな詩人と出会うことに不思議はないし、近代をいかに捉えるかという政治学者としての問題意識とボードレールがうたった近代に対するメランコリーは決して縁遠いものではないのだということは充分に理解できた。
by syunpo
| 2008-08-25 18:59
| 政治
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