2017年 04月 08日 ( 1 )

入試問題でアクチュアルに歴史を学ぶ〜『「超」世界史・日本史』

●片山杜秀著『大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史』/文藝春秋/2016年12月発行

b0072887_1128141.jpg 日本思想史を専攻する片山杜秀が歴史の大学入試問題に挑戦するという企画。編集部選りすぐりの記述式問題に片山が回答の方針を述べた後に専門家の模範解答が示され、その後にまた片山が解説を加えるという形式である。選ばれた入試問題は全部で二十三問。〈世界史〉〈中国史〉〈日本近代史〉〈昭和の戦争〉〈戦国時代〉の五つに章分けされて紹介されている。片山が問題を解いていく過程がそのまま歴史の学習に役立つという仕掛けで、問題に対する論評もスパイスがきいていて面白い書物に仕上がっている。

〈世界史〉では、二〇世紀につくられた国際機構(国際連盟と国際連合)に関する一橋大学の問題に違和感を表明しているのがおもしろい。国際連盟は「何もないところから、第一次世界大戦のあまりにも悲惨な結果を反省した国々が、ウィルソンの理念に共鳴して、集まってできた」ものだが、国際連合の方は第二次大戦の連合国を母体とする。入試問題では両者ともにモスクワ宣言で打ち出された理念を具現化する国際機構として想定、出題しているのだが、片山は「連合国の意向でできた国際連合を平和を求める人類の善意でできたかのよう」に考えるのは「錯誤」であると問題そのものに対して疑義を呈するのである。

〈中国史〉における科挙に関する問題に関連して、中国を手本にした日本が科挙を導入しなかった理由について解説しているくだりも興味深い。「能力主義は身分制や地縁・血縁の論理とは相性が悪く、それを排除しようとする傾向があります。ですから、科挙官僚の批判の矛先は、貴族だけでなく、世襲で君臨している天皇に向かった可能性があります」と片山は推論している。

 日本史関連では「統帥権の独立」の解釈が政治的対立の重要な争点となった事件(ロンドン海軍軍縮会議における統帥権干犯問題)の解説に片山らしさがはっきりと出ている。かねてからの持説である「未完のファシズム」問題の一端に論及しているからだ。
 当時、軍政と軍令は分離されていたが、これは明治憲法の権力分立思想の一面を示す仕組みでもあった。片山の見方によれば、統帥権干犯問題は軍政と軍令が分かれていたことに起因する。明治憲法下の権力分立による統治機構は総力戦時代には適合せず、権力の一元化を旨とするファシズム国家にはついになりえなかったというのが片山の「未完のファシズム」論である。

 このほか、昨今の欧州とイスラム圏との対立の根源に遡らせて十字軍遠征について答えさせる慶応義塾大学の設問と解説も骨太の歴史認識を問うもので勉強になったし、中国共産党と中国国民党との関係を問う問題なども現在の日中関係を考えるうえでは参考になるものだろう。

 片山の歴史観が時に強く押し出された本書の記述には賛同できない点もなくはないけれど、「アクチュアルに歴史を学ぶ」には恰好の新書であることは間違いない。
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by syunpo | 2017-04-08 11:30 | 歴史 | Trackback | Comments(0)