ブックラバー宣言


コラムニスト・吉本俊二の書評ブログです。
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2017年 05月 17日 ( 1 )


昭和史を貫く「悪の構造」〜『21世紀の戦争論』

●半藤一利、佐藤優著『21世紀の戦争論 昭和史から考える』/文藝春秋/2016年5月発行

b0072887_19123245.jpg 昭和史に詳しい作家・半藤一利と元外交官の佐藤優による対談集。書名からもわかるように、ここで議論されているのはもっぱら戦争を軸とした昭和史の断面についてである。具体的には、七三一部隊、ノモンハン事件、終戦工作、軍事官僚機構などが検証・考察の対象となっている。

 歴史的事実から思考を組み立てようとする二人の対話は「神は細部に宿る」の格言を地でゆくがごとく時に細かな議論にまで立ち入るのだが、薄味な対談が多いなかではそれこそが本書の一つの売りといえるだろう。

 七三一部隊にいた人物が戦後エイズ問題で物議を醸したミドリ十字の社長になったという話はよく知られているけれども、半藤は帝銀事件に関しても松本清張を参照しながら七三一部隊関係者の関与を示唆しており、たいへん興味深く読んだ。

 ソ連軍との戦闘に惨敗したノモンハン事件に関する議論も示唆に富んでいる。とりわけ私が驚いたのは敗戦処理にまつわる事実。作戦を立案した参謀は陸軍の基本方針で厳しく責任を問われることはなかったのに、現場の指揮官たちはみな戦場で自決させられたという。半藤が自決した指揮官の名前を一人ひとり挙げてそのことを指摘したのを受けて佐藤は次のように述べている。

 ……軍法会議で敗因を究明するのではなく、自決を強要したというのですね。現場の指揮官に自決させるというのは戦史研究の上では非常にマイナスです。負け戦に関して徹底的に聴取して、教訓を得なければならない。口封じに殺してしまっては、何の意味もありません。(p234)

 こうした事例に象徴されるように、対話をとおして浮かびあがってくるのは、戦争を遂行した日本のエリートたちがいかに失敗から学ばなかったかというあまたの史実である。そのマインドは現代の官僚組織にも受け継がれているという点でも二人の認識は一致している。とくに言及されているわけではないけれど、原発事故から抜本的なことを何一つ学ぼうとしない政治のあり方などはその典型といえるだろう。

 そうした観点からすれば、戦後日本が外見上は全体主義体制から戦後民主主義に変革を遂げたように見えても「日本に破滅をもたらした因子が、温存されることになってしまった」(佐藤優)ことは否めない。昭和時代は戦争によって断絶があったというよりも、むしろ見事なほどにつながっている。

 さらに昨今の歴史修正主義的な動きに対して、半藤が「歴史修正主義というよりも、歴史を知らないだけじゃないでしょうか。知らないものは、修正しようもない」と辛辣に批判しているのも印象に残った。

 昭和時代の連続性に着目し、そこに組み込まれている「悪の構造」を顕在化させるという本書の狙いは充分に果たされているのではないか。日本のエリートには昔も今も「失敗学」という発想が欠落しているのだなとあらためて感じた次第である。逆にいえば、そうした悪しき昭和の精神をいかに自覚し改善していくかが、二一世紀日本の大きな課題だといえるのかもしれない。
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by syunpo | 2017-05-17 19:17 | 歴史 | Trackback | Comments(0)