2017年 10月 14日 ( 1 )

二世紀前に登場した新しい概念!?〜『経済成長という呪い』

●ダニエル・コーエン著『経済成長という呪い 欲望と進歩の人類史』(林昌宏訳)/東洋経済新報社/2017年9月発行

b0072887_10105951.jpg 人類の壮大な歴史を駆け足で振り返り、「経済成長」という概念を様々な角度から再検討する。コンセプトははっきりしているが、参照される知見は学際的で多岐にわたっていて、さながら知の万華鏡ともいうべき本である。

 コーエンは「経済成長」という概念が近代の産物であって、人類史を通じてつねに追求されてきたものではないないことを指摘する。

 ……経済成長はほんの二世紀前に登場した新しいアイデアなのだ。太古から一八世紀の産業革命前夜までの期間、人類の収入は今日の貧困者たちと変わらない一日一ユーロ程度で低迷していた。(p22)

 ただコーエンの関心は、その「アイデア」をもっぱら心理学的な側面から捉えることにあるようである。人々の不安を和らげるのは「経済成長」という約束であって約束が実現することではないとさえコーエンはいう。

 たとえば心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーは「本人が標準と考える状況と比較」することによって、その人の幸福/不幸が判断されるのだと主張した。

 であるから、人間が成長神話から解放されない理由の一つをその心理的な機制に見出そうとするのも本書の文脈からすれば必然というべきであろう。当然ながらそのような考察を経て提起される処方箋は良くも悪しくも観念論的といえる。

 人間の欲望は、その人が身を置く状況から多大な影響を受ける。ゆえに人間は飽くなき無限の欲望を抱くことになる。そうした人間の欲望を地球の保全と整合性をもたせるためには、新たな転換が必要になる。それは物質的な経済成長の追求ではなく、人々の精神構造の変化によってもたらされるだろう。これが本書の結論的な展望である。聡明なる読者諸氏はこのような見解に、賛同できるだろうか。
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by syunpo | 2017-10-14 10:12 | 経済 | Trackback | Comments(0)