2017年 11月 20日 ( 1 )

人類の営みと歴史を垣間見る〜『世界の美しい窓』

●五十嵐太郎+東北大学都市・建築理論研究室編著『世界の美しい窓』/エクスナレッジ/2017年10月発行

b0072887_194074.jpg 窓は建築の中でももっとも魅力的な部位かもしれない。冒頭でそのように言明する本書は、文字どおり世界の美しい窓を紹介するものである。編者の五十嵐太郎はその惹句につづけて窓に対する認識を次のように示している。

 ファサードを人間の顔に見立てるならば、まず窓は目になるだろう。すなわち、目が顔の印象をつくりだすように、窓は建築の表情を決定する大きな要素である。もちろん、目になぞらえるのは、窓から光を室内に採り入れるだけではなく、窓を通じて部屋にいる人間が外の風景を眺めるからだ。また空気を入れ換えることも窓に求められる機能である。エアコンなどの空調設備が現在ほど整っていない近代以前には、より一層重要な役割を果たしていた。とすれば、通風のための窓は鼻や口にも似ていよう。

 さまざまな機能をもつ窓がつくりだす豊かなデザイン。すべての項目にカラー写真を配しているので「古今東西の建築を旅するかのように」読者はページをめくっていくことになる。

 本書は二部構成である。「窓を外から見る」1章と「窓を内から見る」2章から成る。さらにそれぞれを「遠景」「中景」「近景」の三つにカテゴリー分けして、窓や建築に対するアプローチのしかたを変えていくのも編集の妙といえようか。

 ピックアップされているのは、歴史的な宗教的施設や観光名所的建築、古い街並みや建築家の私邸まで多岐にわたる。窓という一つの切り口だけで、世界の建築の多様性と同時に意外な共通性を知ることができるのは一つの驚きといっていいかもしれない。

 降り積もった火山灰が円錐状を成す岩を利用した〈カッパドキア〉。岩内部に洞窟状に広がる住居は階数の概念に乏しいため、窓やテラスの位置はバラバラになっているが、深く掘られたテラスは各戸のプライバシーを確保し、日射を遮る機能性をも有している。

 ル・コルビュジエの名作〈サヴォワ邸〉は、二階の端から端までつながる横長の窓が圧巻。水平連続窓と呼ばれるそれは、モダニズム運動を主導したル・コルビュジエが提唱した「近代建築の五原則」に含まれるアイデアという。

 イエメン〈サナア旧市街〉のカマリアの窓は歴史を感じさせて見る者の想像力を掻き立てる。インドの〈繊維業会館〉にみえる「陽光砕き」の意味をもつ「ブリーユ・ソレイユ」なる形式のファサードもおもしろい。

 アントニ・ガウディの〈カサ・バトリョ〉の曲線美は今さら賞賛するまでもないだろう。ヒンドゥー教や道教の影響を受けているらしいシンガポールの〈タン・テンニア邸〉の独特の色彩もインパクト充分。

 一六世紀末に竣工した〈サン・ピエトロ大聖堂〉のドーム天井部分にある長方形窓からは光がさしこんで美しい。大きな天窓をもつ〈ソロモン・R・グッゲンハイム美術館〉はフランク・ロイド・ライトの傑作だ。マルクスか通ったことで知られる〈大英博物館図書室〉の二十個の窓と頂部の巨大な天窓は、大英帝国のかつての栄華を感じさせるスケール感。

〈アマリーエンブルク離宮〉のトリッキーな窓の細工もおもしろいし、〈ロンシャンの礼拝堂〉の白いコンクリート壁一面にあけられた窓は形状的には日本の城壁に穿たれた「狭間(さま)」を想起させて興味はつきない。安藤忠雄の〈光の教会〉は十字型のスリットから光がさしこむ仕掛けで、本書でもやはり取り上げられている。

〈シャルトル大聖堂〉のステンドグラスは壮観そのものだし、パリにある〈アラブ世界研究所〉の窓は、メカニカルなデザインとイスラムの伝統的な意匠を巧みに融合させて印象深い。

 そうしたなかで、個性的なウィンドウレス・ハウスとして掲載されているのが、名古屋市にある〈竜泉寺の家〉。コンクリート打ち放しの矩形の建築で、そのシンプルな造りがかえって本書のなかで異彩を放っている。

 窓は、建築のキャラクターを決めるだけでなく、連続して並ぶ同じ様式の建築で用いられると、窓は街並みをつくりだすこともできる。逆に屋内にいる人たちは、窓枠という切り取られたフレーム越しに外を眺めることで、窓による「額縁効果」を感受することにもなるだろう。ついでに記せば「同窓生」という言葉があるように、窓という漢字には「勉強所」という意味もある。

 窓がつくりだす豊かなデザイン。いや、デザインというレベルにとどまらず、窓をとおして私たちは人類の営みやその歴史を垣間見ることができるといってもいいかもしれない。
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by syunpo | 2017-11-20 19:06 | 建築 | Trackback | Comments(0)