ブックラバー宣言


コラムニスト・吉本俊二の書評ブログです。
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〈まつりごと〉をめぐって〜『知の訓練』

●原武史著『知の訓練 日本にとって政治とは何か』/新潮社/2014年7月発行

b0072887_9441865.jpg「政=まつりごと」には二つの意味が含まれる。人民を統治すること。文字どおりの政治。そして今一つは神をまつること。祭祀。本書は、日本の「まつりごと」について、その両面を考え合わせることで、より深い政治的思考を身につけることを目的とする。明治学院大学での講義録をベースにしたものである。

〈時間〉〈広場〉〈神社〉〈宗教〉〈都市〉〈地方〉〈女性〉という鍵概念と政治との関係を考察するという形式で、個々の項目がとりあえず一話完結的になっているので読みやすい。項目のなかには原武史が一冊の本にまとめたテーマも含まれていて、その意味では著者のこれまでの仕事のエッセンスが詰まった本ともいえよう。

 まつりごとの二つの面について考察する本書の趣旨からして、天皇や皇室をめぐる言説が本書全体に及んでいることはいうまでもない。〈時間と政治〉では、昭和天皇さえも時間の支配から免れることがかなわなかったという指摘は興味深いし、〈広場と政治〉では皇居前広場の特異性を世界的な視点からあぶり出す。

 鉄道にも詳しい著者の持ち味が出ているのが、東西の二都市について述べた〈都市と政治〉。皇居を中心として整備された帝都東京と、私鉄の営みが都市の開発に直接に結びついた民都大阪の比較対照は鮮やかな切れ味をみせる。

 ただし紋切り型の反復にとどまっている箇所もなくはない。東京を論じるのに、皇居を「空虚な中心」と表現したロラン・バルトを引用する議論はいいかげん聞き飽きたし、〈地方と政治〉の項目で田中角栄を「土建屋的発想」の観点から言及するのもお決まりのパターン。むろんそれだけで本書の価値を貶めるつもりは毛頭ない。全体をとおして議題の取り上げ方、トピックスの掘り出し方などに「空間政治学」を提唱する原ならではの個性が感じられることは確かで、読んで損のない本だと思う。
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by syunpo | 2014-10-26 09:47 | 政治 | Trackback | Comments(0)

中間地点としての現在〜『史論の復権』

●與那覇潤著『史論の復権 與那覇潤対論集』/新潮社/2013年11月発行

b0072887_114727.jpg 学問的な過去の探求による成果を踏まえつつも、しかしその主眼をむしろ現在の捉えかえしに置いて、自分たちが生きている時代が歴史上いかなる境位にあるのかを、専門家に限らず広く江湖に問いかける──。これが著者のいう「史論」。本書はそうした「史論」の復権に意識的な気鋭の日本史学者が異分野の人々と対論した記録である。相手は、中野剛志、中谷巌、原武史、大塚英志、片山杜秀、春日太一、屋敷陽太郎。内容的には玉石混淆で、映画史研究者・春日との対話など箸にも棒にもかからない陳腐なものも含まれてはいるが、対論相手によってはそれなりにスリリングな話が展開されている。

『団地の空間政治学』を著した原は「国対国という視点では見えないもの、たとえば東京の中のさまざまな差異というもの」を描いて独自の現代史を浮かびあがらせた。〈宋朝/江戸〉という大雑把な二分法で歴史を捉えようとする與那覇と対峙したとき、原のスタンスはいっそう光彩を放つように思われる。

 與那覇のコンテクストにのせて柳田國男を読み直そうとする大塚の発言もおもしろい。柄谷行人の画期的な柳田論とあわせて、偉大な民俗学者のテクストが今日的な再吟味にたえる可能性にみちたものであることを知るのは有意義なことだろう。

 小津安二郎を現代史の流れのなかで語りあう片山との対談も全面的に納得できるわけではないものの、興味深い指摘が随所にみられる。「日本的だといわれても自然回帰とは無縁なところが、小津が徹底したモダニストたるゆえん」(與那覇)と確認して、古式ゆかしい日本の伝統を描いたといわれる小津作品からモダニズム的な要素を具体的に取り出してくる二人の眼力はけっこう鋭い。

 與那覇潤のこれまでの仕事に関しては、話題になった『中国化する日本』など内容以前にその力みかえった語り口が私には今ひとつなじめなかったのだが、対論形式だと優れた論者を得て聞き役に回ったときにいい味を醸しだす。研究分野の異なる人とぶつかりあうことで、持論を修正したり、あるいはいっそう洗練度をあげたりということもありうるだろう。その意味では與那覇単独の著作よりも本書のような対論集の方が私にとっては親しみやすい気がする。
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by syunpo | 2014-04-28 11:11 | 歴史 | Trackback | Comments(0)

団地は政治の磁場だった〜『団地の空間政治学』

●原武史著『団地の空間政治学』/NHK出版/2012年9月発行

b0072887_20292668.jpg これはなかなか面白い本である。「団地」に対するこれまでのイメージがいかに実態とかけ離れたものであったか、本書の記述にふれて認識を新たにする読者は私を含めたくさんいるに違いない。
 初期の団地はアメリカ式ライフスタイルをモデルとしたもの。プライバシーが保たれているがゆえに個人主義的なライフスタイルが進んだ人工的な居住空間。……ページをめくっていくにつれて、そのような団地にまつわる認識のステレオタイプは覆されていく。

 団地を政治思想史ないし空間政治学の視点からとらえる。本書のコンセプトは一言でいえばそういうことになる。具体的に論じられているのは、大阪・香里団地、多摩平団地、ひばりケ丘団地、常盤平団地、高根台団地などだが、着眼点のユニークさに加えて綿密な取材と多岐に渡る文献の渉猟により、高度経済成長期(五〇年代後半〜七〇年代前半)における団地の政治的ありようが具体的なかたちをとって浮かび上がることとなった。

 一部の社会学者たちは、日本人が憧れたアメリカ型のライフスタイルの一つの典型を団地に見ようとしたが、そもそも日本の団地のような四階建や五階建の直方体形をした建物が大都市の郊外に林立する風景はアメリカ本国には見当たらない。日本の団地に近い風景はむしろロシアや旧東ドイツ、ポーランドなど、日本と同じく戦災に見舞われて住宅不足が深刻化した旧社会主義国に多く見られるものであるという。

 また初期の団地では、自主的な文化サークルや市民運動が自発的に生まれ、活発な活動が展開された。香里団地における「香里ヶ丘文化会議」、多摩平団地の「多摩平声なき声の会」、ひばりケ丘団地の「ひばりケ丘民主主義を守る会」などだ。
 活動内容は女性たちによる保育所設置運動や鉄道の混雑緩和要求、値上げ反対闘争など生活に密着したものから、安保問題やベトナム反戦運動など、多岐にわたった。大学教員らインテリが主導するケースもあったが、無名の住民たちも多く参画した。「政治の季節」とは一見無縁な団地在住のサラリーマンや主婦が、実は重要な政治的役割を果たしていたのである。

 安保闘争の挫折とともに新左翼は四分五裂の状態に陥ったが、郊外の団地では、安保闘争の遺産が民主主義について考える機会を与えた。……たとえ国会前で安保反対を叫ぶことはなくなっても、「政治の季節」は続いていたのである。(p58)

 公営、公団を問わず、東京や大阪における賃貸の大団地の相次ぐ建設は、社会党の政策に見合っただけでなく、都市部における社会党の支持者を増やしていく結果をも招いた。また共産党も六〇年代後半から積極的に団地政策に取り組んだ。安い家賃の公営住宅建設を促し、自治会が集会所を民主的に運営し家賃値上げに反対することなど、具体的な対策を打ち出したのである。
 こうして大都市圏の団地はしばしば社会党や共産党の票田となったばかりか、自治会や政治サークル出身者の中から少なからぬ議員をも輩出した。

 政治が空間を作り出したのが旧社会主義圏だったとすれば、逆に空間が政治を作り出したのが日本の団地だった。日本の団地における自治会や居住地組織の多様な活動は「私生活主義」におさまらない「地域自治」の意識に目覚めさせることにもなったのだ。

 しかし高島平団地のような高層化団地が主流になることによって団地は「私生活主義」へと大きく傾いていく。さらに過疎化・高齢化は多くの団地に共通する課題となっている。団地の黄金時代は過去のものとなった。新たな〈団地の政治思想史〉が書かれる時はこれから先やってくるのだろうか?
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by syunpo | 2012-12-26 20:47 | 政治 | Trackback | Comments(0)