●本山美彦、萱野稔人著『金融危機の資本論』/青土社/2008年12月発行
米国のサブプライムローンの破綻に端を発する世界的な金融危機は何故生じたのか。——本書は、そうしたアクチュアルな問題の分析から始まって、これからのあるべき資本主義の形について気鋭の経済学者と哲学者が対論した記録である。 日米関係を機軸にして世界金融危機の全体像をわかりやすく分析したくだりはなかなか興味深いものであるし、萱野が米国経済の動向についても並々ならぬ識見をもっているのには感心させられた。 もっとも、後半部の資本主義と国家との関係に関する議論では二人が既存の「人文・思想アカデミズム」を批判しているほどに特に目新しさは感じられない。たとえば新自由主義の信奉者たちが「大きな政府批判をしながら、今回のような金融危機になるとなぜか国家に助けを求める」という矛盾を指摘して、資本主義と国家との一体的な関係について強調している点など、これまで柄谷行人らが述べてきたこととほとんど重なりあっている。グローバリゼーションの進展によって国家の役割は縮小していくなどという認識に対して今さら力みかえって否定しなくとも、かなり以前に破綻しているのではないかと思う。 また米国主導の金融グローバリズムに対抗していくビジョンとして「経済的ナショナリズム」なる用語を持ち出して「地域の自立」を主張している点なども話の中身はごく常識的なもので、財政学や政治学の立場から市場万能主義的な社会のあり方に異義を唱えている神野直彦や山口二郎らの主張と基本的には大差なく、誤解を招きやすい大仰な用語を使って理論武装するほどのことでもないと感じた。
by syunpo
| 2009-02-16 18:36
| 政治
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