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未来の祖母たちの姿〜『やなぎみわ マイ・グランドマザーズ』

●東京都写真美術館、国立国際美術館企画・監修『やなぎみわ マイ・グランドマザーズ』/淡交社/2009年3月発行

b0072887_18485992.jpg CGや特殊メイクを使ったユニークな写真作品で知られ、二〇〇九年ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館代表作家に選ばれたやなぎみわ。これはシリーズ《マイ・グランドマザーズ》を中心に収録した作品集で、今春、東京都写真美術館で開催された《やなぎみわ マイ・グランドマザーズ》展、大阪・国立国際美術館で開催中(六月二〇日〜九月二三日)の《やなぎみわ 婆々娘々》展の公式カタログとして発行された。

 《マイ・グランドマザーズ》は、モデルとなる女性が自らイメージする半世紀後の姿に扮したお婆さん像をやなぎが撮影したもので、それぞれの写真には短い文章が添えられている。出来上がった写真はいずれも長時間モデルとの間で対話が積み重ねられた結果であるという。一九九九年より制作がスタートし現在も継続中のシリーズらしいが、展覧会ではこれまで完成した全作品二十六点が集められている。

 会場でこれらの作品群を観た時、最初はその制作過程や企画趣旨をまったく把握していなかったので、正直、今一つピンとこなかった。会場に置かれていたカタログをめくりこのシリーズのあらましを知って、あらためて作品一つひとつを見直していったという次第である。

 砂丘で舞い踊るMOEHA、森の奥の小さな家のベッドに横たわるKAHORI、飛行機の窓から雲海を眺めているSACHIKO、「看取り屋」として契約した人の死に水を取っているMIKIKO……五〇年後の想像的な存在である「老女」たちは、人生を達観していたり、人間社会の破滅を見届けようとしていたり、あるいは若い男とアメリカ横断を企てていたり、まさに十人十色の世界が繰り広げられている。
 こうしてモデルとのコラボレーションによって作り込まれた作品は、たとえば被写体との一期一会の瞬間性、偶発性を捉えた横溝静の写真作品《Stranger》シリーズとは極めて対照的だ。

 さらに、《マイ・グランドマザーズ》シリーズは、写真における時間のあり方を再考させるものではないだろうか。

 写真は撮られた瞬間に、時間が凍結し、過去となる。写真とはおしなべて過去の記録である。
 ここでのモデルたちは五〇年後の自分を先取りしながら、思い思いにフレームに収まって「未来」を「過去」にする。それは来たるべき「未来」の映像であるかもしれないが、こんな「未来」を夢見たのだ、という自分の「過去」の痕跡ともなる。

 仮に、私が子供の頃にやなぎみわと出会ってこの企画に参画していたとすれば(実際、本シリーズには三人の男性がまじっている)、かなりお気楽で能天気な「お婆さん」に扮していただろう。けれども今の私には五〇年後の自分を想像することさえかなわない。(生きていたら百歳になっている!)

 時間とは希望の源泉でもあり、同時に苛酷なものである。
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by syunpo | 2009-07-09 19:02 | 美術 | Comments(0)
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