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落日の帝国をみて日本の将来を想う〜『徒然草 in USA』

●島田雅彦著『徒然草 in USA』/新潮社/2009年7月発行

落日の帝国をみて日本の将来を想う〜『徒然草 in USA』_b0072887_193253.jpg 一九八八年六月から八九年六月にかけての一年間、島田雅彦はニューヨークに暮らした。二〇年後の二〇〇八年七月から〇九年三月にかけて再び島田はニューヨークに滞在した。アメリカ帝国の落日を内部からみつめる機会を得た作家が彼の国とさらには祖国について徒然なるままに綴ったのが本書である。

 エッセイの達人でもある島田にしては今一つ冴えない本というのが正直な感想。もう少しニューヨークでの体験がヴィヴィッドに報告されているのかと思ったが、日本にいても書けそうなパッセージがかなりの割合を占めている。後半の日本の将来を展望する随想などさらにそうした印象を強化する。

 政治・経済に関する記述は意外と正攻法のアプローチで、これなら専門家の書いたものを読んだ方が良いと思ったし、米国軍の実態や医療制度の貧困ぶりなどはマイケル・ムーアの映画や堤未果のレポートですでにおなじみの話である。米国で立ち上げたイベント・プロジェクト《極小彼岸(ニルヴァーナ・ミニ)》にしても、本書では能書きだけに終わってしまっているので消化不良の感は否めない。

 分野は違えども、四方田犬彦の『ストレンジャー・ザン・ニューヨーク』や上野千鶴子の『国境お構いなし』に収められた米国滞在記、水村美苗の一連のエッセイなんかは、個別具体的な異文化体験をインテリらしく社会的一般的な問題として提起していく身振りに面白さが感じられた。その点、本書のスタンスはなんとも中途半端という気がする。
by syunpo | 2009-08-07 19:08 | 文学(小説・批評) | Comments(0)
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