●夏目漱石著『文鳥・夢十夜』/新潮社/2002年9月発行(文庫改版版)
「こんな夢を見た」で始まる《夢十夜》は、漱石の研究者の間では要注目の重要な作品らしい。また映画作家やイラストレーターなど他の分野のクリエイターたちにも少なからぬインスピレーションを与え続けてきたテクストである。 古い物語や落語では夢落ちの話がたくさんあるが、最初に「夢」の話だとことわっているところがクセモノなのである。実際に漱石がこんな夢を見たわけでもあるまい。文芸批評家がフロイトを引っ張りだしてきて、あーだこーだと論評するのも奇妙な気がする。 私にとってこれは漱石作品のなかでも難物の一つである。護国寺の山門で運慶が仁王を刻んでいる〈第六夜〉などは《吾輩は猫である》にも通じる文明批評的な要素を含んでいて取っ付き易いが、眼の潰れた子供を背負って青田の中を歩いていく〈第三夜〉、戦争に行った男の無事を祈って親子が神社にお参りする〈第九夜〉など、その不気味な雰囲気や悲惨さも相俟って、なかなか一筋縄ではいかない。漱石の眼は終始覚醒していて、私のような凡庸な読者がまさに夢見心地に誘われる作品。 本書には表題作二編のほかに、《永日小品》《思い出す事など》《ケーベル先生》《変な音》《手紙》が収録されている。
by syunpo
| 2009-08-23 17:23
| 文学(夏目漱石)
|
Comments(0)
|
検索
記事ランキング
以前の記事
カテゴリ
全体 思想・哲学 政治 経済 社会全般 社会学 国際関係論 国際法 憲法・司法 犯罪学 教育 文化人類学・民俗学 文化地理学 人糞地理学 地域学・都市論(国内) 地域学・都市論(海外) 先史考古学 歴史 宗教 文化全般 文学(小説・批評) 文学(詩・詩論) 文学(夏目漱石) 文学(翻訳) 言語学・辞書学 書評 デザイン全般 映画 音楽 美術 写真 漫画 絵本 古典芸能 建築 図書館 メディア論 農業・食糧問題 環境問題 実験社会科学 科学全般 科学史 生物学 科学哲学 脳科学 医療 公衆衛生学 心理・精神医学 生命倫理学 グリーフケア 人生相談 ノンフィクション ビジネス スポーツ 将棋 論語 料理・食文化 雑誌 展覧会図録 クロスオーバー 最新のコメント
タグ
立憲主義
クラシック音楽
フェミニズム
永続敗戦
ポピュリズム
日米密約
道徳
印象派
マルチチュード
テロリズム
アナキズム
想像の共同体
古墳
イソノミア
社会的共通資本
蒐集
闘技民主主義
厳罰化
規制緩和
AI
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||