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こんな夢を見た〜『文鳥・夢十夜』

●夏目漱石著『文鳥・夢十夜』/新潮社/2002年9月発行(文庫改版版)

こんな夢を見た〜『文鳥・夢十夜』_b0072887_1754574.jpg 「こんな夢を見た」で始まる《夢十夜》は、漱石の研究者の間では要注目の重要な作品らしい。また映画作家やイラストレーターなど他の分野のクリエイターたちにも少なからぬインスピレーションを与え続けてきたテクストである。

 古い物語や落語では夢落ちの話がたくさんあるが、最初に「夢」の話だとことわっているところがクセモノなのである。実際に漱石がこんな夢を見たわけでもあるまい。文芸批評家がフロイトを引っ張りだしてきて、あーだこーだと論評するのも奇妙な気がする。

 私にとってこれは漱石作品のなかでも難物の一つである。護国寺の山門で運慶が仁王を刻んでいる〈第六夜〉などは《吾輩は猫である》にも通じる文明批評的な要素を含んでいて取っ付き易いが、眼の潰れた子供を背負って青田の中を歩いていく〈第三夜〉、戦争に行った男の無事を祈って親子が神社にお参りする〈第九夜〉など、その不気味な雰囲気や悲惨さも相俟って、なかなか一筋縄ではいかない。漱石の眼は終始覚醒していて、私のような凡庸な読者がまさに夢見心地に誘われる作品。
 本書には表題作二編のほかに、《永日小品》《思い出す事など》《ケーベル先生》《変な音》《手紙》が収録されている。
by syunpo | 2009-08-23 17:23 | 文学(夏目漱石) | Comments(0)
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