●黒沢清、蓮實重彦著『東京から アメリカ映画談義』/青土社/2010年5月発行
若い頃からハリウッド製の活劇に親しみ「アメリカ映画を語ることだけが、真の意味で批評の言葉を鍛えてくれたのだという確信にたどりついた」という批評家と、その批評家の熱い視線を浴びながら映画を撮り続けてきた映画作家によるアメリカ映画に関する対話の記録である。対象になっているのは現代アメリカ映画を代表する監督、クリント・イーストウッド、スティーブン・スピルバーグ、クェンティン・タランティーノの三人。 「変態する変態」としてのイーストウッド、時代劇作家としてのスピルバーグ、「才能をひけらかすことのない努力の人」としてのタランティーノ……と三者三様の個性が、例によって批評家のちょっぴり尊大なる語り口と映画作家の実感をまじえた喋りとで懇々と説かれている。 蓮實独特のクセのある言い回しは、シンポジウムなどで彼の語りに慣れない人が絡んだ場合には齟齬をきたして会話が滑らかに転がっていかない事態を生じさせたりもするのだが、黒沢清が相手ならば文字どおりよく出来た活劇のごとくにトントンと話は進みゆく。 とりわけスピルバーグへの評価に熱のこもっているのが特筆されよう。 やはりスピルバーグと言うと、マーケティングの人だと思われてしまっていて、たしかにマーケティングは下手ではないんでしょうけど、……その前にもう少しまともにスピルバーグを評価しておくべきでしょうね。(蓮實、p102) ……ジョージ・ルーカスみたいに、もう自分では撮らずプロデューサー業に転職するという選択が普通です。アメリカではその方が権力があり、かつ楽なんですから。でもスピルバーグはどういうわけか監督業にこだわっている。あれだけ成功しているのに。その点に限っても特異な、そして語られるべき監督だと思っています。(黒沢、p114) ついでにトム・クルーズ擁護の弁舌も面白い。 トム・クルーズを貶めることが知的な振る舞いだと思いこんでいる連中の頭の悪さは救いようがない。(蓮實、p98) 「目標としては、まあイーストウッドは無理にしても、タランティーノよりは上を狙って、何とかスピルバーグに手が届くくらいかと……あはは、何という自惚れでしょう」というクロサワの今後が大いに期待されましょう。
by syunpo
| 2010-07-21 09:39
| 映画
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