●桂米朝著『桂米朝句集』/岩波書店/2011年7月発行
桂米朝が東京やなぎ句会の同人であることは折りにふれて話題になるが、このたび単独では初めての句集が出た。米寿に先駆けての刊行、まことに悦ばしい。 冒頭、東京やなぎ句会宗匠・入船亭扇橋の「序文」が掲げられ、後半に米朝本人の「随筆」と権藤芳一の「解説」を収めるという構成。色紙に書かれた直筆の句もいくつか掲載されている。高座同様に上品な知性やユーモア、お色気がそこここに感じられるような名句(迷句?)揃い。 春の雪誰かに電話したくなり ……仲間うちでも名句といわれている一句らしい。「この句のすばらしさは、かざらぬ心情を詠んでいるところ」(入船亭扇橋)。 パンティはふとんの外に朝寝かな マニキュアの爪でむく桃のみずみずし ……なかなかよろし。俳句ではなくこーゆーシチュエーションが。 舞い初めの孫の手ぶりについつられ ……お正月。家族やら門弟やらが集う米朝家の賑やかな年始の光景が目に浮かぶよう。 百円のテレビ切れせせらぎ涼し ……旅先の旅館で百円を入れて見るテレビ。一時間ほどして切れると、部屋のそばを流れるせせらぎの音が聴こえてくる。テレビを見ている時には気付かなかった、その涼しげな音に思わず耳をすます。「停電で聞こえ出したり虫の声」も同じような味わい。 水着売場値札だけ見て通りけり ……日本橋三越吟行とある。なるほど女の子のビキニなんてわずかな布切れしか使っていないのに、けっこうな値段が付いてございます。ほほう、と妙に感心しつつ値札を見て通りすぎる米朝師御一行。 日陰より日陰へ移る立ち話 ……初夏の一日、偶然遭遇した知人と挨拶だけでは済まず、直射日光を避けながらとりとめのない世間話がつづく。新潟吟行における一句。 ボールペン使い切ったりあたたかし ……ボールペンというものは意外と最後まで使い切ることは少ない。途中で先のボールがとれて使えなくなってしまったり、誰かが勝手に持っていったり。使い切って手のぬくもりが残るボールペン。春の訪れ。 蚊柱の口へはいりしこともあり ……故桂枝雀の高座《軒付け》では、一行が外に出たとき蚊柱がたっている様子をさりげなく描写するくだりがある。爆笑の合間、ちょっとしたフレーズに季節感を織り込んで噺の味を引きたてる枝雀の話芸をふと思い出した。
by syunpo
| 2011-07-28 18:42
| 文学(詩・詩論)
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