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哲学は欧米人だけの思考法である〜『反哲学入門』

●木田元著『反哲学入門』/新潮社/2010年6月発行

哲学は欧米人だけの思考法である〜『反哲学入門』_b0072887_9252564.jpg 西洋における哲学の歴史が暴力的なまでに「鷲づかみ」にされた入門書である。したがってとてもわかりやすい。このわかりやすさには注意が必要ではないかと不安になるほどである。それをさらに鷲づかみにして要領良く纏めたのが三浦雅士の解説だ。本書のエッセンスを手っとり早く把握したければ、末尾の三浦の寄稿文だけでも読めばよい。

 三浦の解説に依拠して本書の内容を要約すると次のようなことになる。

 太古、自然に向き合った人はそこに様々な生命の躍動を感じたであろうが、それはあくまでもそう「なっている」ものであって、誰かによって「つくられた」ものであるとは思わなかっただろう。ところが、それを「つくられた」ものとして考える人々があらわれた。「つくられた」ものである以上、設計図(理想)があるはずである。この世の存在はその理想の写しだということになる。プラトンの「イデア」とはそういうものだが、これは驚くべき考えではないか。弟子のアリストテレスからみても、それがギリシア古来の考え方ではなかったらしい。
 プラトンがそのような考え方にいたったのには、ユダヤ教の影響があったと考えられる。その後にプラトンとプラトンに強い影響を受けたアリストテレスの思想が、キリスト教やイスラム教の教義を形成するにとても大きな力を持ち、結局はそれが現在の西洋世界をかたちづくることになった。まさに西洋の哲学史は「つくる」思想の大きな流れとして捉えられるのである。
 こうした西洋哲学の成り立ちは、とても不自然なものである。とりわけ人間も自然の一部と考えるような日本人には到底なじめない考え方だ。哲学というのは、やはり西洋という文化圏に特有の不自然なものの考え方だと思われる。それなのに西洋哲学を理解したふりをしてきた日本の哲学者や研究者の多くは欺瞞的というべきではなかろうか。
 もっとも西洋にも従来の哲学を批判する者があらわれた。ニーチェだ。ニーチェの哲学、さらには彼の影響の受けた後続のハイデガーやデリダたちの哲学はしたがって「反哲学」というべきものである……。

 それにしても、木田の「鷲づかみ」の迫力には圧倒されるものの、そこに素描されたカントもニーチェもハイデガーもどことなく辛気臭い感じで、私にはあまり魅力的に感じられなかった。まぁ、それでいいのだろう。冒頭で木田は哲学とは麻薬のようなものであると言い「哲学なんかと関係のない、健康な人生を送る方がいいですね」と忠告しているのだ。健康な人をわざわざ不健康な道に招くようなことを本書は企図していない。「ニーチェやフーコーを読んで新しい世界をつくろうぜ!」とノリノリで読者を誘うヒップホップ好きの佐々木中のような(不良ではあっても不健康ではない)熱い語りは最初から自粛されているのである。
by syunpo | 2011-07-30 09:29 | 思想・哲学 | Comments(0)
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