●蓮實重彦著『映画時評 2009-2011』/講談社/2012年5月発行
『映画崩壊前夜』につづく蓮實重彦の映画時評集。雑誌「群像」での短いレビューを中心に編んでいる。これまで蓮實が熱っぽく語ってきた映画作家の作品が大半で、その点では変わりばえはしないけれど、ウディ・アレンを俎上に載せているのは珍しいかもしれない。 蓮實独特の語彙を駆使した時評はやはりおもしろい。《チェチェンへ アレクサンドラの旅》を「無条件にのめりこむことのできるまぎれもない傑作」として絶賛し、イーストウッドの《チェンジリング》をめぐってはヒロインの赤い唇と赤い路面電車に着目して「思いがけない画面のつらなり」の魅力を浮かび上がらせる。 ウディ・アレンの《それでも恋するバルセロナ》では、アマチュアをプロフェッショナルに演じさせることの作家的な野心について語り、イーストウッドとスパイク・リーの口喧嘩をマクラに振って《セントアンナの奇跡》を論じる口ぶりは、この作品の重い題材にも関わらず、どこか愉悦感を帯びている。 努力と勤勉さの痕跡がこれみよがしにきわだつことのない作品として《イングロリアス・バスターズ》を称揚したかと思えば、《アウトレイジ》の導入部の贅沢な演出ぶりを具体的に指摘してみせる。 私自身、必ずしも深く理解しえたとは思えない《ゴダール・ソシアリスム》や黒沢清の《トウキョウソナタ》に関する論考には教えられるところが多かった。巻末に収められている青山真治との対談も興味深い。
by syunpo
| 2012-06-14 21:31
| 映画
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