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日本国のアンチエイジングを考えよう〜『幼少の帝国』

●阿部和重著『幼少の帝国 成熟を拒否する日本人』/新潮社/2012年5月発行

b0072887_20561542.jpg ロラン・バルトの『表徴の帝国』の向こうを張って『幼少の帝国』。本書は一応ノンフィクションということになっている。テーマは日本人の「成熟拒否」。もっともそのような議論の隆盛は今に始まったことではない。「成熟拒否の問題は、戦後ずっと、日本人論の切り口の一定番だった」。ミーハー主義を標榜する阿部和重はそんな常套句中の常套句の世界にすすんで身を投じる。常套句中の常套句を乱発するために。

 そこで一つの仮説が設定された。阿部は一九四五年九月にアメリカ大使公邸で撮影された昭和天皇とマッカーサーのツーショット写真に注目する。

 昭和天皇とマッカーサーのツーショット写真を、戦後日本の「成熟拒否」傾向を決定づけたきっかけだったと、わたしたちは位置づけました──そしてそれを機に、ちっちゃな存在たる自分自身の自己肯定に励んでいったのが、戦後日本の復興期だったのではないか、と一つのストーリーをわたしたちは粗描してみたわけです。(p68〜69)

 本書はそういうわけで「成熟拒否の一例かもしれない物事の表面のみに絞って注目」したノンフィクションなのである。「成熟拒否の一例かもしれない物事」として、アンチエイジングにおけるスキンケアや美容外科の最前線、カーボンナノチューブなどの超小型化技術、ニチアサキッズタイムを利用したバンダイのマーチャンダイジング、終わりなき青春を生きるスタイルとしてのデコトラ文化……などの具体例が取り上げられる。

「成熟拒否の一例」としてアンチエイジングや小型化技術を俎上に載せるのは生真面目な読者にすれば単なる「屁理屈」かもしれないが、ここに登場する資生堂ライフサイエンス研究センターの研究員や高須クリニック院長の談話は読み物としてはそれなりに面白い。また映画『トラック野郎』からデコトラ文化に言及したり、ニチアサキッズタイムにおける東映とバンダイのマーチャンダイジングに興味を示す阿部の語りも熱い。

「成熟拒否の一例かもしれない物事」の考察を通して阿部は一つの逆説を見出すに到る。「現代日本に特有の文化現象としての『成熟拒否』傾向とは、じつは老練な職人芸によってこそ支えられているという逆説」を。そして「『成熟拒否』を可能にする、老練な職人芸が今、重大な危機に迎えているのだ」と付け加えることも忘れない。では、これからどうすれば良いのか。

 老練な職人芸の後継者が、この先不足する一方なのだとすれば、「純潔性」という幻想を捨ててもともとの「異種交配」に立ち返るしか、生存戦略上の選択肢はありません。「成熟拒否」の姿勢という日本ならではの処世術を貫くには、もはやそれしかないように思えます。(p232)

 本書の企画は新潮社のPR誌において立ち上げられたものである。その連載中に東日本大震災が発生した。そこで被災地ルポを二篇執筆するという想定外の成り行きになった。その二篇はいささか優等生的なルポルタージュで、本書のなかでは浮き上がったような印象を拭いきれない。そこを除けば「屁理屈」のこね方や話の展開のしかたに小説家らしい芸を感じさせる「ノンフィクション」作品といえるだろう。
by syunpo | 2013-03-01 21:06 | ノンフィクション | Trackback | Comments(0)
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