●熊野純彦著『西洋哲学史 古代から中世へ』/岩波書店/2006年4月発行
「哲学者の思考がおそらくはそこから出発した経験のかたちを、現在の私たちにも追体験可能なしかたで再構成する」こと。哲学者の思考のすじみちを論理的に跡づけること。哲学者自身のテクストや資料となるテクストをなるべく引用すること。本書は以上の三点に留意しつつ記された二分冊の哲学史の前編である。哲学の起源として考えられるイオニアと古代ギリシアの植民都市に生まれた哲学から語り起こし、中世のスコトゥス、オッカムまでをカバーする。 昨今再評価の声が高まっているイオニアの自然哲学者。知者ではなく、あくまで「知を愛し、もとめる者」としての愛知者であったソクラテス。かたちそれ自体は不可視であるというイデア論を説いたプラトン。すべての人間は生まれつき知ることを欲すると主張したアリストテレス。生と死の技法を考察し、カントやニーチェにまで影響を及ぼしたストア学派。きみ自身のうちに帰れ、真理は人間の内部に宿ると語ったアウグスティヌス。神の存在を五つの道によって証明したアクィナス……。 古代から中世にかけて哲学史に名を刻んだ哲学者たちの思索の跡を大股で渉猟していく熊野の筆致は、時に詩的な味わいをも感じさせて歯ごたえ充分。率直にいえば私自身は本書の内容を完全に理解できたとは言いがたい。哲学史入門を謳っている新書ではあるものの初学者向けの噛み砕いた記述を期待している読者にはいささかハードルの高い本といえるだろう。
by syunpo
| 2013-04-18 20:05
| 思想・哲学
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