●宇沢弘文著『社会的共通資本』/岩波書店/2000年11月発行
![]() 社会的共通資本とは「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」のこと。自然環境(大気、森林、河川、水、土壌など)、社会的インフラ(道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなど)、制度資本(教育、医療、司法、金融制度など)の三つに大別できる。 制度主義経済体制における政府の経済的機能は、統治ではなく監視にある。そして「社会的共通資本の各部門は、それぞれの分野における職業的専門家によって、職業的規範にしたがって、管理・維持されなければならない」というのが基本的な考え方である。 本書においては農村のような存在をも社会的共有資本と捉え、農村におけるコモンズのあり方を考察しているのが私には興味深く感じられた。宇沢によれば、農村とは個々の農家や農業に還元されるものではなく、またそれらを合算したものでもない。コモンズとしての農村は、農業活動を「統合的に、計画的に実行する一つの社会的組織」として存在すべきものなのである。ちなみに柄谷行人は宇沢のこのような農村コモンズ構想に関して、「共同自助」の観点から経世済民を考えた柳田国男の農政学を回復するものと見なして肯定的に言及している。(※) むろん瑕疵がないわけではない。農村におけるコモンズの一例として宇沢が期待をこめて紹介している三里塚農社の試みは、その後成功したとは言い難い。また教育や医療などの分野では全般的に理念的な記述が目立ち、いかにも研究者の書いた本だなぁという印象なきにしもあらずである。 しかし市場経済や競争原理の弊害が深刻化してすでに多くの時間を経た今、あらためて社会的共通資本という概念を学び直すことは意義深いことには違いない。本書はそのための恰好の入門書といえるだろう。 ※柄谷行人著『遊動論』を参照。 ■
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by syunpo
| 2014-01-26 19:06
| 経済
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