●福岡伸一著『生命と記憶のパラドクス 福岡ハカセ、66の小さな発見』/文藝春秋/2012年9月発行
文筆の才でも名を馳せる分子生物学者の福岡伸一。本書は週刊文春に連載しているエッセイを編んだもので『ルリボシカミキリの青』につづく第二弾である。内容的には雑多な題材を扱っているが、標題にあるとおり生命と記憶の逆説的な事象をめぐる科学者らしい随想が全体をとおしてちりばめられている。「散らばった記憶の断片。消えてしまった記憶の痕跡。このエッセイ集もまた、かつてそこにあり、今や失われてしまった何かを紡ぎ合わせるために書かれたものである」と著者はいう。 微生物や植物ならほとんど自前で作り出すことができる「必須アミノ酸」を食物から摂取しなければならなくなったヒトの不自由さにヒトの動物性の所以を見出したり、一見女王バチのもとで酷使されているかのように見える働きバチこそ「生の時間を謳歌している」と主張したり。 腸内細菌の種類もまた人の住む風土に由来することを述べて「生まれ育った場所のものを食べることは生物学的にも合理性がある」と結論づける一文なども昨今推進されている「地産地消」を生物学の見地から支持するものとして興味は尽きない。 小さい頃から読者家だったらしく書物をめぐる追想もなかなかに面白いし、フェルメールの絵画をはじめアートにも造詣が深い福岡ハカセの美質も随所ににじみでている。さりげない筆致のなかに深い内容を具えた、読み応え充分のエッセイ集だ。
by syunpo
| 2014-04-26 20:15
| 生物学
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