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中間地点としての現在〜『史論の復権』

●與那覇潤著『史論の復権 與那覇潤対論集』/新潮社/2013年11月発行

b0072887_114727.jpg 学問的な過去の探求による成果を踏まえつつも、しかしその主眼をむしろ現在の捉えかえしに置いて、自分たちが生きている時代が歴史上いかなる境位にあるのかを、専門家に限らず広く江湖に問いかける──。これが著者のいう「史論」。本書はそうした「史論」の復権に意識的な気鋭の日本史学者が異分野の人々と対論した記録である。相手は、中野剛志、中谷巌、原武史、大塚英志、片山杜秀、春日太一、屋敷陽太郎。内容的には玉石混淆で、映画史研究者・春日との対話など箸にも棒にもかからない陳腐なものも含まれてはいるが、対論相手によってはそれなりにスリリングな話が展開されている。

『団地の空間政治学』を著した原は「国対国という視点では見えないもの、たとえば東京の中のさまざまな差異というもの」を描いて独自の現代史を浮かびあがらせた。〈宋朝/江戸〉という大雑把な二分法で歴史を捉えようとする與那覇と対峙したとき、原のスタンスはいっそう光彩を放つように思われる。

 與那覇のコンテクストにのせて柳田國男を読み直そうとする大塚の発言もおもしろい。柄谷行人の画期的な柳田論とあわせて、偉大な民俗学者のテクストが今日的な再吟味にたえる可能性にみちたものであることを知るのは有意義なことだろう。

 小津安二郎を現代史の流れのなかで語りあう片山との対談も全面的に納得できるわけではないものの、興味深い指摘が随所にみられる。「日本的だといわれても自然回帰とは無縁なところが、小津が徹底したモダニストたるゆえん」(與那覇)と確認して、古式ゆかしい日本の伝統を描いたといわれる小津作品からモダニズム的な要素を具体的に取り出してくる二人の眼力はけっこう鋭い。

 與那覇潤のこれまでの仕事に関しては、話題になった『中国化する日本』など内容以前にその力みかえった語り口が私には今ひとつなじめなかったのだが、対論形式だと優れた論者を得て聞き役に回ったときにいい味を醸しだす。研究分野の異なる人とぶつかりあうことで、持論を修正したり、あるいはいっそう洗練度をあげたりということもありうるだろう。その意味では與那覇単独の著作よりも本書のような対論集の方が私にとっては親しみやすい気がする。
by syunpo | 2014-04-28 11:11 | 歴史 | Trackback | Comments(0)
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