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観念の自己実現〜『貨幣という謎』

●西部忠著『貨幣という謎 金と日銀券とビットコイン』/NHK出版/2014年5月発行

b0072887_19532871.jpg 貨幣という存在の謎。あるいはそれが存続し続ける謎。本書はその謎に対して「観念の自己実現」という概念をもって答える。すなわち「人々が同じようなことを考え、一斉に同じ方向へと働いてしまうと、それによってある観念が現実のものになる、非現実な観念といえども自分自身を支え持ち上げてしまうという事態」が「観念の自己実現」である。ありていにいえば、貨幣に価値があるのは、みんなが貨幣に価値があると思っているから。このような「観念の自己実現」こそがブームやバブルを発生させ、経済を不安定にする一つの原因ともなる。

「観念の自己実現」によって存在し存続している貨幣は市場や商品を成立させるための前提条件であって、市場での商品交換をただ効率的にするための便利な「道具」ではない。貨幣なくしては市場もまた存在しないのだ。ゆえに貨幣を考えることは市場や資本の特性、さらにそうした要素に規定されている経済のみならず、文化や倫理を考えることにもつながる。

 すなわち、現在の貨幣のあり方を変えることは、市場や経済のあり方のみならず、私たちの文化や倫理を変えることにつながるのです。(p227)

 西部は、貨幣経済がもたらす諸問題の根源は貨幣の国営化にあると考える。経済的通貨制度と政治的国家制度の癒着が、市場経済に固有の問題を生み出したり、深刻化させたりしているとみるのである。そこで両者のより望ましい結合が模索されなければならない。本書ではその新たな結合のモデルが明確なかたちで提起されているわけではないが、新たな貨幣──コミュニティ通貨、電子マネー、ビットコインなど──の出現に可能性を見ようとする。

 今後、貨幣の脱国営化と貨幣の競争を目指す自由貨幣運動が進むとすれば、それは自由主義や利己性に基づく交換原理だけでなく、利他性や連帯に基づく互酬原理をも含みうる広さを持っているのではないかと考えられます。(p245~246)

 ここまで読み進んでくると、同じように貨幣や交換原理の問題と格闘した柄谷行人の壮大な思想的営みを想起してしまうが、あくまで進化経済学や貨幣論の枠内で交換原理を考えようとする読者には、本書はよき入門書的な役割を果たしてくれることだろう。
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by syunpo | 2015-02-18 20:01 | 経済 | Comments(0)
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