●大澤真幸、木村草太著『憲法の条件 戦後70年から考える』/NHK出版/2015年1月発行
![]() 例によって大澤が勉強家ぶりを発揮していて、発言の主要部分には引用が多い。ヤスパース、赤坂真理、カント、ルソー、サンデル、ロールズ、アガンベン、カフカ、橋爪大三郎……。というわけで本書で目新しい視点が打ち出されているわけではないのだが、多角的に憲法に接近していくという意味では有意義な本であるだろう。 人は法をつくることができる。他方で、統治者といえども法に従わなければならない。この両立を目指すのが近代国家。しかしそれは容易ではない。つまり「法の支配」は民主的な国家が成立するためのきわめて重要な条件であるが、歴史的にみれば独特の社会的条件であり、それを確立・定着させることの難しさが前半部で確認される。この困難にいかに立ち向かうかが本書を貫くメインテーマということになる。 日本国憲法を考える場合、その普遍主義的な面を重視・尊重する立場がある。木村によれば、それは歴史的な負い目を感じないでいられるという利点をもつが、議論が上滑りしやすく且つ冷たくなってしまうという欠点もある。そこで木村は「一般の人から見れば、憲法というのは国の物語の象徴としての役割のほうが重要なのではないか」と問いかける。 それに対して大澤が持ち出すのは「未来の他者の願望を受け取ること」「弱さを通じての連帯」という理念。たとえば前者に関する注釈は次のようなものである。 ……平和憲法をもつ日本人は、未来の他者がやるべきこと、彼らが生き延びるとするならばやるはずのことを、現在の他の人たちに先駆けてやろうとしていることにある。未来の他者たちは、平和に生き延びようとすれば、あるいは実際に生き延びられるとしたら、憲法九条的なものをもつことになるはずです。(大澤、p79) 木村は「法というものが、未来の他者や弱者と連帯する足がかりになるのではないか」と受けるのだが、そのような議論のまとめ方はややトートロジーに陥っている感なきにしもあらずといえようか。 本書では、このほかヘイトスピーチや差別・不平等の問題、集団的自衛権などアクチュアルな問題についても熱い議論がなされている。いささか茫漠とした読後感が拭えないにしても、それなりにスリリングな対論になっているのではないかと思う。 ■
[PR]
by syunpo
| 2015-03-03 20:20
| 憲法・司法
|
Trackback
|
Comments(0)
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。
ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
|
検索
記事ランキング
最新の記事
カテゴリ
全体 思想・哲学 政治 経済 社会全般 社会学 国際関係論 憲法・司法 犯罪学 教育 文化人類学・民俗学 文化地理学 地域学 先史考古学 歴史 宗教 文化全般 文学(小説・随筆) 文学(詩・詩論) 文学(夏目漱石) 文学(翻訳) 日本語学・辞書学 書評 デザイン全般 映画 音楽 美術 写真 漫画 絵本 古典芸能 建築 図書館 メディア論 環境問題 実験社会科学 科学全般 生物学 科学哲学 脳科学 医療 心理・精神医学 生命倫理学 ノンフィクション ビジネス スポーツ 将棋 論語 料理・食文化 雑誌 展覧会図録 クロスオーバー 以前の記事
最新のコメント
最新のトラックバック
タグ
プロパガンダ
指揮権発動
立憲主義
厳罰化
闘技民主主義
社会的共通資本
印象派
想像の共同体
ポピュリズム
古墳
マルチチュード
テロリズム
イソノミア
宗教改革
永続敗戦
鎖国史観からの脱却
蒐集
クラシック音楽
空間政治学
日米密約
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||
外部サイトRSS追加 |
||