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ブックラバー宣言

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妄想は社会をヘルシーにする!?〜『暗黒寓話集』

●島田雅彦著『暗黒寓話集』/文藝春秋/2014年11月発行

b0072887_2032041.jpg 暗黒時代には暗黒寓話集を。ってことらしいが、内容的には島田一流のヒューモアや諷刺精神がまぶされているので、苦味や辛味ばかりが攻めてくるわけでもない。カフカ的な暗さとは趣を異にするポップな短編集である。

〈アイアン・ファミリー〉は「男を奮い立たせる仕事」を選んできた一族の系譜の物語。作品をとおして示される男性性をめぐるメタファーは、空疎なマッチョが社会を牛耳る現代へのアイロニーとも読めるだろう。挿話を簡潔に羅列していくだけの叙述がかえって面白味を醸し出しているというべきか。

〈死都東京〉はSF小説的な仕掛けで、死後の世界と東京の近過去を交錯させる。島田の妄想力が発揮された作品。

 自然に恵まれた多摩丘陵の一角がニュータウンに生まれ変わり廃れていくまでの変転を描く〈夢眠谷の秘密〉は読者をオカルティックな世界に誘う。

〈透明人間の夢〉は行き場を失くしたカップルの絶望的だがちょっぴり滑稽な道行きを描く。なるほどダメ人間はこのようにして「透明人間」になるわけか。

〈名誉死民〉は線路に転落して救命された男の話。彼を救った若者は身代わりに死んでしまう。本を読むこと書くことへと導かれる主人公の姿は作者の分身とまでは言わぬまでも、ささやかな希望を感じさせもする。

〈南武すたいる〉は南武線に関するエッセイで、本書の中ではいささか浮きあがった印象。〈神の見えざる手〉は、福耳や雨男、貧乏神たちをめぐるショートショート風の掌編が並ぶ。

〈CAの受難〉は著者自身が驚いてツイートしていたように、先日起こったドイツの格安航空会社の航空機墜落事故を予兆するかのような筋立て。現実が作家の妄想を後追いする。と言いたくなるような事件事故は過去にもあったけれど、やはり世の中が少しずつ変調をきたしているようにも感じられる今日この頃ではある。
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by syunpo | 2015-04-12 20:16 | 文学(小説・批評) | Comments(0)
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