ブログトップ

ブックラバー宣言

syunpo.exblog.jp

内発的発展のもとに〜『グローバリゼーションの中の江戸』

●田中優子著『グローバリゼーションの中の江戸』/岩波書店/2012年6月発行

b0072887_19295084.jpg つい一昔前まで、江戸時代とは「鎖国」の時代であり、その社会のあり方は閉鎖的としてネガティブに論じられることが多かった。しかし、そうした見方は一面的という以上に、かなりの謬見を含んでいることがその後の研究によって明らかになってきている。そもそも「鎖国」なる用語は江戸時代の公式文書に使われたことは一度もない。

 本書ではロナルド・トビの『「鎖国」という外交』など歴史学の成果に立脚しながら江戸時代の日本を国際社会との関連によって、すなわちグローバリゼーションの中に位置づけて見ていく。

 たとえばファッション。着物は日本独特のものではない。その形は中国から来て東アジア諸国と共有し、その文様や技法はインドを含めたアジア全体と共有している。あるいは美術。印象派に日本の衣類や道具類、庭のデザイン、浮世絵が大きな影響を与えたことはよく知られている。その浮世絵じたいは中国版画の影響を受けて発展してきたと考えられている。日用品に関しても、陶磁器や眼鏡などは世界市場との関わりのなかで普及するようになった。

 また江戸時代の出現をグローバルな視点から分析するくだりにも蒙を啓かれた。豊臣秀吉の朝鮮出兵によってアジアで孤立を深めた日本は、江戸時代に大きな外交の転換をはかろうとした。「鎖国」というイメージとは反対に、江戸時代こそがようやく本格的なアジアとの外交が始まった時代と田中は指摘する。

 ……日本は、江戸時代になると初めて、東アジアで中国・朝鮮・ヴェトナムと対等になろうとしました。それも軍事的な力によるものではなく、文化・文明の高さと技術力において、対等になろうとしたのです。江戸時代の平和主義、官僚機構の整備、インフラ整備、治安の良さ、教育水準の高さは、そのような幕府の姿勢によって徐々に作られたもので、努力によって積み上げられたものです。(p157)

 また鉄砲の伝来が戦国時代の終焉をはやめたことはよく言及されることだが、本書ではさらに鉄砲を自国生産するようになったことに象徴的な意義を見出している点は興味深い。つまり(銀生産などの)資源で生きられなくなった日本は世界に存在する技術産品を自ら作ることができるようにすることで生き残りをはかったのである。

 江戸期日本は閉鎖的というよりも国際社会のアクターとして、諸外国との間で相互に影響を受けたり与えたりしていた。しかもそれを内発的に為していたことは注目に値する。江戸時代に様々な問題点のあったことは確かだが、よく言われる日本の島国的・鎖国的な発想というのは、江戸時代にはまったくあてはまらないことがよくわかる。岩波ジュニア新書〈知の航海〉シリーズの一冊だが、大人が読んでもおもしろく勉強になる本だ。
[PR]
by syunpo | 2015-05-01 19:37 | 歴史 | Comments(0)
<< 度胸と愛嬌で戦場を渡り歩く〜『... 存在とは歓びである〜『君自身の... >>