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ブックラバー宣言

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日本は情報収集の優位性を活かせ〜『イスラム国の野望』

●高橋和夫著『イスラム国の野望』/幻冬舎/2015年1月発行

b0072887_18595125.jpg イスラム国に関する解説書は本書と相前後して数多出版されたが、複雑怪奇な中東情勢をいかにわかりやすくときほぐすかが一つの課題になっているように思われる。

 本書では「複雑な枝葉の部分をできるだけ省略し、大事なポイントだけを絞りに絞って、最大限にシンプルな解説をするよう心がけ」たという。噛み砕いた語り口はもともと著者の持ち味、口上どおりイスラム国をめぐる歴史的背景や中東情勢がコンパクトにまとめられている。

 イスラム国はイラクとシリアで勢力を急拡大させた。
 イラクは米軍撤退後のマリキ政権の失政が直接的には過激派台頭を招くことになったのだ。イスラム国が強かったというよりも、イラク中央政府がまったくダメだったという面が大きい。シリアではアサド勢力と反アサド勢力の対立に、内外の諸勢力がからんで「内戦の中に内戦がある」ような戦争のマトリョーシカ状態が生まれ、イスラム国につけいるスキを与えてしまった。
 政治の空白が危険な政治勢力を育む土壌になるという教訓は、この問題だけにいえることではないかもしれない。

 まとめの部分で、高橋は米軍によるイスラム国空爆の効果を一定程度認めたうえで、地上戦なしでも「じっくりと時間をかけて圧力をかけ続ければ、イスラム国は内部崩壊していくでしょう」との見通しを示している。また日本がとるべき道として、イスラム国に接近するジャーナリストや研究者の活動をあまり縛ることなく、情報面での優位を活かせるような政策的配慮の必要性を主張しているのが印象に残った。

 ナポリオーニの『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』がローマ建国を引き合いに出すなど時に射程の長い歴史的俯瞰の姿勢を見せているのに対して、本書は手堅く近現代の中東情勢にそって話をすすめている。文明論的な新しい視点を提示しようという余計な色気を抑えているぶん読みやすく仕上がっており、新書という形式にも適合した良き入門書といえるだろう。
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by syunpo | 2015-05-18 19:05 | 国際関係論 | Comments(0)
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