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チンパンジーの研究から考える人間らしさ〜『想像するちから』

●松沢哲郎著『想像するちから チンパンジーが教えてくれた人間の心』/岩波書店/2011年2月発行

b0072887_2162523.jpg 本書の著者である松沢哲郎は〈アイ・プロジェクト〉とよばれるチンパンジーの心の研究で知られる学者。アフリカの野生チンパンジーの生態調査も行なっていて、チンパンジーの研究をとおして人間の心や行動の進化的起源を探究している。

 人間の体が進化の産物であるのと同様に、その心も進化の産物である。いったんそう理解してしまえば、教育も、親子関係も、社会も、みな進化の産物であることがわかる。チンパンジーという、人間にもっとも近い進化の隣人のことを深く知ることで、人間の心のどういう部分が特別なのかが照らしだされ、教育や親子関係や社会の進化的な起源が見えてくる。それはとりもなおさず、「人間とは何か」という問いへの一つの解答だろう。(p2〜3)

 そのようにして著者たちが切り開いたのは比較認知科学とよばれる新しい研究領域である。「毎日、新しい何かをチンパンジーが教えてくれる」という研究によって明らかになってきたチンパンジーの特徴はじつに興味深いものだ。互恵的な役割分担はしない。親が子どもに何かを教えることはせず、子どもは大人の真似をすることで学習する……。
 人間にもっとも近いチンパンジーとの相違点から著者は人間の特徴を以下のように導き出す。

 人間とは何か。その答えは「共育」、共に育てるということだ。共育こそが人間の子育てだし、共育こそが人間の親子関係である。(p42)

 人間は、進んで他者に物を与える。お互いに物を与え合う。さらに、自らの命を差し出してまで、他者に尽くす。利他性の先にある、互恵性、さらには、自己犠牲。これは、人間の人間らしい知性のあり方だといえる。(p78〜79)

 今ここの世界を生きているから、チンパンジーは絶望しない。「自分はどうなってしまうんだろう」とは考えない。たぶん、明日のことさえ思い煩ってはいないようだ。
 それに対して人間が容易に絶望してしまう。でも、絶望するのと同じ能力、その未来を想像するという能力があるから、人間は希望をもてる。どんな過酷な状況のなかでも、希望をもてる。
 人間とは何か。それは想像するちから。想像するちからを駆使して、希望をもてるのが人間だと思う。(p182)


 科学者としての合理的思考を突きつめつつ、チンパンジーに対する愛情がそこここに感じられもする文章で、楽しみながら読み進むことができた。
 人間を特徴づけるものとしての〈想像するちから〉。文学者なども〈想像力〉という言葉をよく使うけれど、〈想像するちから〉とあらたまって科学者から発せられると、また違った意味合い・重みが感じられる。
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by syunpo | 2015-06-04 21:16 | 生物学 | Comments(0)
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