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市場原理が蝕むもの〜『それをお金で買いますか』

●マイケル・サンデル著『それをお金で買いますか 市場主義の限界』(鬼澤忍訳)/早川書房/2012年5月発行

b0072887_113536.jpg 市場勝利主義は今やあらゆる領域に進出してきている。市場原理こそが最も効率的で人間の幸福を最適化するという考えに導かれて。道徳的に善と考えることがらは、それを商品化することでその善の性質を変えることはなく経済効率を高める。ゆえに金銭的インセンティブを導入したり、あらゆる種類の善の受給ギャップを埋めるのに市場を利用することは極めて効果的なやり方である、というわけである。

 だが本当にそうなのだろうか。
 本書では、金銭を払って行列に割り込む権利を売買すること(航空会社のファストトラック・サービス、高速道路のレクサスレーン等)、金銭的インセンティブ(成績の良い子供にお金を払う制度、一定期間禁煙した従業員にお金を払う制度等)、有名人に関する死亡賭博などを俎上にのせて、この問題に真正面から切り込んでいく。

「昔から非市場的規範にしたがってきた生活領域に市場が入り込む」ことの弊害として、サンデルは二つの問題点を指摘する。「公正さの毀損」と「腐敗」である。
 たとえば血液を自由に売買する市場が社会に与える悪影響。血液の商品化は、失業者や貧しい人々などを食い物にする。これは「公正さの毀損」に該当する。さらに人々の献血への義務感が蝕まれ、利他精神が損なわれ、社会生活の積極的特性である「贈与関係」が崩壊してしまうだろう。つまり「腐敗」がすすむのである。

 むろん「非市場的規範にしたがってきた生活領域」にまつわる公共善に対する考え方は人によって異なる。何が正しい規範なのか、意見が一致しているわけではない。問題はそこにある。

 私が言いたいのはそこだ。市場や商業は触れた善の性質を変えてしまうことをひとたび理解すれば、われわれは、市場がふさわしい場所はどこで、ふさわしくない場所はどこかを問わざるをえない。そして、この問いに答えるには、善の意味と目的について、それらを支配すべき価値観についての熟議が欠かせない。(p283)

 近代民主主義の言論空間においては「不一致をおそれるあまり、みずからの道徳的・精神的信念を公の場に持ち出すのをためらう」。だが、こうした問題を議論なしにすませておくと、どうなるか。「市場がわれわれの代わりに答えを出すだけだ」。
 私たちにとって重要な問題を市場だけに解決させていいのかどうか。本書はそのことを鋭く問いかけるのである。
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by syunpo | 2015-07-25 11:37 | 思想・哲学 | Comments(0)
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