●村上龍著『賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ。』/KKベストセラーズ/2013年11月発行
久しぶりに村上龍のエッセイを読んでみた。敗者であふれ思考放棄に陥っている国の若者に向ける脱・幸福論という触れ込みである。幸福とは気のもちようでイエスともノーともいえる概念だから、そのことを問題にするのは意味がない。という考えが本書全体を貫いている。そういう意味では名指しこそされないが、社会学者の古市憲寿のような主張も否定されるのだろう。 「『幸福』を至上の価値として追い求め、憧れ、生きる上での基準とする」のは「思考放棄」に陥った人や共同体には特徴的な傾向だと村上は末尾で述べている。 今、私たちに必要なのは、幸福の追求ではなく、信頼の構築だと思う。外交でいえば、日本は、緊張が増す隣国と、「幸福な関係」など築く必要はない。しかし、信頼関係にあるのかどうかは、とても重要だ。幸福は、瞬間的に実感できるが、信頼を築くためには面倒で、長期にわたるコミュニケーションがなければならない。国家だけでなく、企業も、個人でも、失われているのは幸福などではなく、信頼である。(p203) 村上の筆致は枯淡の色もところどころに滲み出ているが、メッセージの根幹については若い頃と変わっていないのだなと思う。
by syunpo
| 2015-08-09 10:21
| 文学(小説・批評)
|
Comments(0)
|
検索
記事ランキング
以前の記事
カテゴリ
全体 思想・哲学 政治 経済 社会全般 社会学 国際関係論 国際法 憲法・司法 犯罪学 教育 文化人類学・民俗学 文化地理学 人糞地理学 地域学・都市論(国内) 地域学・都市論(海外) 先史考古学 歴史 宗教 文化全般 文学(小説・批評) 文学(詩・詩論) 文学(夏目漱石) 文学(翻訳) 言語学・辞書学 書評 デザイン全般 映画 音楽 美術 写真 漫画 絵本 古典芸能 建築 図書館 メディア論 農業・食糧問題 環境問題 実験社会科学 科学全般 科学史 生物学 科学哲学 脳科学 医療 公衆衛生学 心理・精神医学 生命倫理学 グリーフケア 人生相談 ノンフィクション ビジネス スポーツ 将棋 論語 料理・食文化 雑誌 展覧会図録 クロスオーバー 最新のコメント
タグ
立憲主義
クラシック音楽
フェミニズム
永続敗戦
ポピュリズム
日米密約
道徳
印象派
マルチチュード
テロリズム
アナキズム
想像の共同体
古墳
イソノミア
社会的共通資本
蒐集
闘技民主主義
厳罰化
規制緩和
AI
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||