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ブックラバー宣言

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思考放棄を放棄しよう〜『賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ。』

●村上龍著『賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ。』/KKベストセラーズ/2013年11月発行

b0072887_10202746.jpg 久しぶりに村上龍のエッセイを読んでみた。敗者であふれ思考放棄に陥っている国の若者に向ける脱・幸福論という触れ込みである。幸福とは気のもちようでイエスともノーともいえる概念だから、そのことを問題にするのは意味がない。という考えが本書全体を貫いている。そういう意味では名指しこそされないが、社会学者の古市憲寿のような主張も否定されるのだろう。

「『幸福』を至上の価値として追い求め、憧れ、生きる上での基準とする」のは「思考放棄」に陥った人や共同体には特徴的な傾向だと村上は末尾で述べている。

 今、私たちに必要なのは、幸福の追求ではなく、信頼の構築だと思う。外交でいえば、日本は、緊張が増す隣国と、「幸福な関係」など築く必要はない。しかし、信頼関係にあるのかどうかは、とても重要だ。幸福は、瞬間的に実感できるが、信頼を築くためには面倒で、長期にわたるコミュニケーションがなければならない。国家だけでなく、企業も、個人でも、失われているのは幸福などではなく、信頼である。(p203)

 村上の筆致は枯淡の色もところどころに滲み出ているが、メッセージの根幹については若い頃と変わっていないのだなと思う。
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by syunpo | 2015-08-09 10:21 | 文学(小説・批評) | Comments(0)
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