●小田嶋隆著『その「正義」があぶない。」/日経BP社/2011年11月発行
「正義」は、それに反する者を排除し、自分たちの陣営に与しない人間を敵視するための装置として働き、その結果、「正義」を唱える者たちを思考停止へと導きがちだと小田嶋隆はいう。かかる「正義」がもたらす窮屈への悲鳴としてジョークを並べる。正義という言論硬直化圧力に抗する気概を表明する。そういったあたりが本書のコンセプトらしい。 とはいえ本書を通読しての印象としては、「正義」を相対化するために小田嶋は別の「正義」を持ち出しているだけではないだろうか。もちろんそれが悪いことだとはけして思わない。人はおそらく正義という概念なしには生きていけないだろうから。それに反する者を排除するような「正義」は二流の「正義」として後景に退き、寛容をうたう「正義」が台頭するはずだ。「正義」だってたえざる更新の過程にある。つまり本書は頑迷でインチキくさい「正義」を茶化しつつ披瀝される小田嶋流「正義」の書とでもいえばよろしいか。「面倒くさい話題から距離」を置くふりをして「面倒くさい話題」に参入するという流儀とお見受けした。 だからというべきか、その議論の中身を真面目に吟味することを求めるような書きぶりではない。といってツイッターでは時に面白味も感じられるナンセンスな言葉遊びもこの分量の文章となるとちと苦しい。早い話が私には退屈な本であった。 ついでに言えば、民主党政権とメディアとの関係に言及した文章などは内容的に賞味期限切れの感を否めない。テレビのキャスターについて「政治家を自分より格下の存在として扱っている」などと憤慨しているのだけれど、現在の与党政治家の横暴とメディアの萎縮ぶりを見るにつけ、わずか数年前の文章なのに隔世の感を禁じ得ない。それだけ日本社会が急速に厄介な方向へと進んだということなのかもしれないが。
by syunpo
| 2016-09-05 19:11
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