●高村薫著『空海』/新潮社/2015年9月発行
二十一世紀を生きる一日本人にとっての二十一世紀の等身大の空海像をとらえるべく高村薫は、高野山をはじめ京都、四国、さらには中国・西安へと空海ゆかりの地を旅する。本書は共同通信社によって配信された連載記事に加筆修正をほどこしたものである。 高村が宗教に関心をもつようになったのは、阪神大震災の経験がきっかけだった。「長らく近代理性だけで生きてきた人間が、人間の意思を超えたもの、言葉で言い当てることのできないものに真に直面」したからだという。 空海の足跡をたどりながら、高野山の庭儀結縁灌頂三昧耶戒の法会に立ち会い、空海が生きていた時代へと想像力を飛翔させる。平行して空海に関する文献や資料を丹念に読み込む。さらには、四国八十八ヵ所霊場を巡り結願した人物に会うために国立ハンセン病療養施設を訪ねたりもする。 二人の空海がいた、と高村は書く。都で天皇や貴族たちを相手に講説を続けた宗教的リーダーとしての顔。満濃池修築工事や綜藝種智院創設などに力を発揮した社会事業家としての顔。さらには入滅した後にも弘法大師として庶民の信仰の対象として生き続けた歴史的カリスマとしての顔を付け加えることができるかもしれない。 日本古来の自然やアニミズムを滲みこませた身体の直接体験と、中国語の論理や修辞が合体したとき、まさに空海独自の比類ない密教世界が開かれた。空海ただ一人が開き、空海ただ一人で完結し、後世に革新や進化が起こるべくもなかった理由がここにある。(p183) オーラ。宗教的天才。作家の手になる空海論としては語彙や表現がやや凡庸という感想は否めないけれど、空海や真言宗の概略を知るうえでは有意義な本といえるだろう。
by syunpo
| 2016-09-13 20:28
| 宗教
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