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日常生活の実践として〜『デザインの教科書』

●柏木博著『デザインの教科書』/講談社/2011年9月発行

日常生活の実践として〜『デザインの教科書』_b0072887_20112238.jpg 本書が論じている「デザイン」はかなり幅広い射程を有している。辞書には「作ろうとするものの形態について、機能や生産工程などを考えて構想すること」(スーパー大辞林)などの語釈が記されているが、ここでの対象は「ものの形態」にとどまらならい。そこから展開を広げて生活様式や思考方法なども含み込もうとする。もちろんそのような捉え方は柏木博の独創ではなく、今では多くの人が共有している認識ではあるだろう。

 二〇世紀のデザインは近代社会の出現によって提案されたものである。モダンデザインの特徴として柏木は四つの点を挙げている。「経済的計画」「人々の生活様式を新たなものにする提案」「普遍的=ユニヴァーサル」「消費への欲望を喚起する」である。

「経済的計画」の代表的な例として、フォードが始めたベルト・コンベア方式の生産がある。これはその後、住宅をはじめ様々な分野に適用されることとなった。デザインによる生活様式の提案は、ウィリアム・モリスやバウハウスなどがその先鞭をつけたものだが、バックミンスター・フラーによる「ダイマクション・ハウス」などによって発展していった。

 デザインの普遍性という点では、建築家ミース・ファン・デル・ローエの「ユニヴァーサル・スペース」というコンセプトが有名。グラフィック・デザインでも、その名のとおり「ユニヴァーサル・タイプ」と命名された文字が一九二五年に登場した。二〇世紀後半にはマーケットの論理によって「消費への欲望を喚起するデザイン」が優先されるようになった。

 以上のような概説をおこなったうえで、柏木はクロード・レヴィ=ストロースを引いて、計画的なモダンデザインにはない「器用仕事(ブリコラージュ)」の可能性を語ることも忘れない。
 さらには、フェリックス・ガタリの『三つのエコロジー』を参照しつつ、環境的エコロジーのみならず社会的・精神的エコロジーに言及している点など、柏木の知見もまた領域横断的である。

 デザインを考えることは、ものと人間の関係をどう考えるのか、あるいはものともの、人間と人間の関係をどう扱っていくのかということを考えることだともいえるだろう。(p176)

 つまり本書にいうデザインとは人間生活全般に関わる営みということになる。その意味では、よくデザインするとはよく生活するということなのかもしれない。余談ながら本書は東日本大震災の直後に刊行された新書だが、それにことさら狼狽えることなく淡々とデザインについて考察している姿勢にも好感をいだいた。
by syunpo | 2017-03-19 20:17 | デザイン全般 | Comments(0)
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