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ブックラバー宣言

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勝ちぬく僕等少国民!?〜『戦時下の絵本と教育勅語』

●山中恒著『戦時下の絵本と教育勅語』/子どもの未来社/2017年11月発行

b0072887_1026262.jpg 戦前、国民に直接的な影響を及ぼしたのは憲法よりもむしろ教育勅語であったことは多くの人が指摘しているところである。本書はそうしたことを明言しているわけではないが、山中恒自身の教育勅語体験をまじえながら、戦時下の絵本を検証し、子供向けの出版物をとおして軍国主義化のプロセスの一端をあとづけるものである。

 山中は一九三一年の生まれ。国民学校における修身の授業で教育勅語の精神を叩き込まれた世代である。天皇の神格化については、文部省が一九三七年に『国体の本義』を出して主導し、教育勅語の精神を盛り込んだ教科書で学校現場に浸透させていった。一方、商業出版では子供向けの絵本などにも国家の方針に協力する姿勢が鮮明にみられるようになった。

 一九三一年の満洲事変から、上海事変、満洲国建国へと進む中で、絵本では軍人の美談が多く取り上げられるようになったという。当時は日本側の策謀などによる侵略的行動が始まっていたため、「日本側の策謀を正当化しようと、陸軍は大衆受けする戦争美談をマスコミに提供」する必要があったのである。美談の代表的な例としては「爆弾三勇士」の話がよく知られているが、戦後になって、勇ましい自爆ではなく、導火線の不備による事故だったことが明らかになった。

 興味深いことに、著者がとくにはっきりと指摘しているわけではないけれど、日本の拡張政策がすすむと、占領した国の子供たちや自然については(上から目線ではあるけれど)批判的な論評を抑えているように見受けられる。悪しざまな表現は、もっぱらその時点で戦っている中国軍や英国軍などに向けられていたようだ。あからさまなアジア蔑視の描出は、当時日本が喧伝していた大東亜共栄圏の建前に照らしてそぐわないという判断が軍にも出版社にもあったのかもしれない。

 本書を一読して感じるのは、出版の営みが時の公権力と結託することの怖さや不気味さだ。とりわけ子供たちに対するビジュアル素材をふんだんに使ったプロパガンダは、大きな影響力を持ったに違いないと思われる。昨今、近隣諸国についての偏見や謬見を煽るような出版物の刊行が相次いでいるが、歴史の教訓から学べることは少なくないはずである。
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by syunpo | 2017-12-26 10:27 | 歴史 | Comments(0)
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