ブログトップ

ブックラバー宣言

syunpo.exblog.jp

伝統思想の重層的な相貌〜『日本思想史への道案内』

●苅部直著『日本思想史への道案内』/NTT出版/2017年9月発行

b0072887_181789.jpg 日本の思想を考えるときに鍵となる概念、〈日本神話〉や〈武士道〉などを取り上げ、それらについて複数の「読み」を提示する。ここで参照されるのは二人の読みの名手──和辻哲郎と丸山眞男である。

 学界ではすでに常識とされていることでも初学者にとっては「へぇ〜」と思えることはいくらもある。本書に関していえば、個人的には儒学や朱子学など江戸期の思想に関するステレオタイプの認識を改めさせられた。

 たとえば一般に儒学は江戸時代の身分制による支配体制を支えた思想として考えられている。私自身も日本史の授業でそのように習ったと記憶する。しかし「朱子学どころかそもそも儒学が一般に、徳川時代の身分制による支配体制とあいいれない性格をもっていること」は、津田左右吉が指摘していたという。儒学とはそもそも身分制批判の要素を含んだ思想なのである。

 また明治新政府が行なった西洋を規範とする政治体制の刷新を思想的にはどう考えればいいだろうか。明治維新によって人びとが突然、西洋由来の政治的理念に目覚めたわけではもちろんない。
 江戸時代の末期には民間から新たな学問を創造する動きが活発化し「身分の別を無視した知識階級といふ如きもの」が現われた。そうした背景があったからこそ、王政復古の後ただちに廃藩置県を導いて封建制に終止符を打つことが可能になったとする和辻の見解は興味深い。

 本書の記述は、良くいえば手堅い筆致、悪くいえばいささか辛気臭い読み味ながら、日本思想史の勘所をかいつまんでガイダンスしてくれるという意味では文字どおり良き道案内の書といえるだろう。
[PR]
by syunpo | 2018-01-20 18:25 | 思想・哲学 | Comments(0)
<< 私たちが得て、失ったもの〜『明... 誤配こそが連帯をつくる〜『観光... >>