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カラーが示す深い意味と味わい〜『世界の美しい色の建築』

●大田省一著『世界の美しい色の建築』/エクスナレッジ/2017年10月発行

b0072887_19524528.jpg 建築と色の関係についてきちんと論及した書物はあまりない。大学の建築学科でも色について教わることはほぼないという。たしかにこれまで親しんできた建築に関する書物は大方がフォルムについて、あるいは都市計画との関係について論じていたような印象がある。建築史のうえで色が話題にされることが少なかったのは何故なのか。

 建築が色を語らないのは、意識のうえでの問題でもあった。ルネサンスでは、古典の復興の中で、ギリシャの大理石彫刻の白さに価値が置かれた。その白さが、光と影を際立たせたのである。美術を制度化していったフランス・アカデミーでは、17世紀以降、絵画において、フォルムか色彩かという「色彩論争」が起こる。このなかで、ルイ14世期は、フォルムを重視して素描に重きを置く方が優勢であった。かたちをとらえることは理性的な行いとされ、色彩はそれに従属するものとされた。(p4)

 むろんその後の建築史は色について時には雄弁に語り始める。考古学調査の伸展もあって古い建築にも色が付いていた証拠が見出されるようになり、ポリクロミー(多色)の建築も多く建てられるようになった。一九世紀の美術批評家ジョン・ラスキンは「完全な建築は最高級の彫刻で形成され、これに(中略)模様彩色を伴わせるべきである」と述べ、バウハウスでは色も科学のひとつと考えられた。

「建築と色彩には、もはやのっぴきならない関係性が生じているようである」と大田省一はいう。そのような認識に立脚した本書は標題どおり世界に存在するカラフルな建築の美しさを紹介している。編集もシンプルでわかりやすい。ピンク、ブルー、イエロー、グリーン、オレンジ、ブラック、ホワイト、レッド〉の八つの色に分けて、それぞれ代表的な建築物を数例ずつピックアップするという構成である。

 ピンク。アルゼンチンの大統領官邸カサ・ロサダ。その名はスペイン語でピンクハウスの意である。アメリカのホワイト・ハウスの向こうを張った渾名というのがおもしろい。ジャケット写真にも使われているマレーシアのプトラモスクのピンクの外観も魅惑的。ピンク色は花崗岩の石材によるものという。

 ブルー。スロバキアの首都ブラチスラバに建つエリザベス教会。青い教会の異名どおり様々な部材がブルー基調で彩られている。ブラジリアのドン・ボスコ聖堂のブルーのステンドグラス、青い光があふれる内部も印象的である。

 イエロー。ベトナム・ホーチミンのサイゴン郵便局。黄色に塗られた外壁が南国の光に鮮やかに映える。フランスの都市計画の手法に従って建てられたらしいのだが、その建築の豪華さは本国から贅沢すぎると言われたとか。ウィーンのシェーンブルン宮殿の外壁はマリア・テレジアにちなんで「テレジアン・イエロー」と呼ばれているらしい。

 グリーン。サンクトベルグのエルミタージュ美術館。ペパーミントグリーンの壁面と白色のコラム(円形断面の柱)、金色の装飾とのコントラストが美しい。サウジアラビア・マディーナにある預言者のモスクは、緑色のドームで知られている。深緑はイスラームにおいては聖なるものを表す色という。

 オレンジ。ロンドンのハンプトンコート宮殿の壁面の鮮やかな色。建築史的にみるとレンガの焼成温度が上がって発色が鮮やかになり、明るいオレンジの壁面が増えた。ストックホルム市立図書館のオレンジ一色の外部塗色は、オークル由来のオレンジスタッコによるもの。

 ブラック。ロシア・キジ島のブレオブラジェンスカヤ教会における破風やドームの屋根材はポプラの板材が使われているが、風雨に晒されたことによる淡い黒色が歴史を感じさせて味わい深い。湯島聖堂は、一七九九年に改築される以前は朱塗りに青緑の彩色だったが、改築を機に黒漆に塗られたという。

 ホワイト。タージ・マハルはインド・イスラムの美を代表する建築。白大理石は皇帝の高貴さを表すために宮殿建築などでしばしば使用された石材である。パリのサヴォア邸は、言わずと知れたル・コルビュジエの代表作。屋上庭園をもつ白い躯体は細い柱で持ち上げられて地面から解放されている。

 レッド。パリのムーラン・ルージュ。ご存知、赤い風車という意味である。かつてモンマルトルの丘には三十近くの風車があったことから、それを屋根に掲げた。ウクライナのキエフ大学のキャンパスの中心には、レッドビルディングが建っている。創立以来、大学を象徴する存在である。

 あれやこれやとカラフルな建築の写真を見ているだけでも充分に愉しいのだが、それぞれのカラーにまつわる解説的なコラムも勉強になった。

 たとえばブルー。ロイヤルブルー、プルシアンブルーなど、高貴で珍重されたイメージが青色にはある。ただしローマでは青は喪服の色であり、ケルトやゲルマンなどの異民族をあらわす色でもあったらしい。大航海時代に入り、ウルトラマリンと呼ばれるラピスラズリ(青金石)がアフガニスタンから欧州に輸入されるようになると、ブルーは様々な場面で使われるようになったという。

「建築の色を知ることは、建築の、どこか新しい局面を見せてくれる契機となるかもしれない」と大田省一は記している。同時期に出た『世界の美しい窓』も美しい本だったように、エクスナレッジの『世界の美しい……』シリーズはユニークな視点を打ち出しつつ誰にも親しめる好企画ではないかと思う。
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by syunpo | 2018-01-29 19:56 | 建築 | Trackback | Comments(0)
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