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三・一一の教訓を生かすための〜『原子力規制委員会』

●新藤宗幸著『原子力規制委員会──独立・中立という幻想』/岩波書店/2017年12月発行

b0072887_20175351.jpg 福島第一原発の悲惨な事故によって原発規制行政は刷新された。事故以前は、原子力安全・保安院と原子力安全委員会によるダブルチェック体制が敷かれていたのだが、民主党政権下で原子力規制委員会に一元化されたのは最も大きな制度的改革といえる。原子力規制委員会は環境省の外局としての行政委員会であり、その事務局として原子力規制庁が設置された。規制委員会は「世界一厳しい」と称する新規制基準を作り、再稼働や老朽原発の運転延長の審査を行なっている。

 けれども実態はどうだろうか。本書は行政学者の新藤宗幸が詳しくそれを検証するものである。すでにマスコミでも断片的に報じられているように、組織の構成も審査の中身もかなり怪しげなものだ。

 原子力基本法は原子力規制委員会設置法附則第一二条によって改正され、原子力利用の安全確保については「我が国の安全保障に資する」なる文言が加えられた。これは常識的な読みをすれば核兵器への転用を視野に入れたものと解釈せざるを得ない。

 委員は相変わらず原子力ムラに属する人物が大半を占めている。新たに作られた規制基準も地震や津波の想定に関して過小評価の可能性が指摘されるなど不備が多い。老朽原発の再稼働をめぐっても「四十年ルール」に例外を認めたために運転延長が可能になった。さらに新規制基準には地域防災計画の評価という観点も抜け落ちているのも問題。とにもかくにも問題だらけといえる。

 それらに加えて、安全ならぬ暗然とさせられたのは、原子力規制庁の初代長官および原子力地域安全総括官として公安畑の警察官僚を起用している点である。原発と警察官僚? それは一体どういう関連性をもつのか。
「彼らのキャリアパスを活用して警察庁との連携を図り、脱・反原発市民運動の動向把握や情報収集をすることが目的ではないのか」と新藤は推察している。実際それ以外の狙いがあるとは考えにくい。

 あれやこれやと制度改革のドサクサに紛れて焼け太りのようなことが平然と行なわれているのが実態である。

 以上のように原子力規制委員会の欠陥を指摘して、現行の組織における独立性や中立性は幻想にすぎないと本書は結論づける。そのうえで新藤はあるべき規制行政のあり方を具体的に提案する。

 その基本は「政治的かつ経済的圧力に左右されない独立性の高い組織構造を備えること」であることはいうまでもない。その方策として設置法に基づき法律的には「内閣の所轄の下」におくことを提案しているのが注目されよう。「内閣の所轄の下」というのは素人にはわかりづらい表現ではあるものの、そのような既存の組織として会計検査院や人事院がある。詳細は省くが「ここでいう『内閣の所轄の下に』は、その字面から受ける印象とは逆に、内閣からの高度の独立性をしめしている」のだという。

 さらに、委員選定の欠格事項をより厳格なものにすることが重要である。利益相反が疑われるような人物の起用は許してはならないのは当然。そのうえで国会同意人事案件の審議過程も透明化される必要があるだろう。

 それだけではない。新藤は司法や国会の役割の重要性を指摘することも忘れない。司法判断の多くが国策に沿ったものであることは周知の事実だが、主体的な判断を促していくためには、人事管理の改革や各級裁判所の裁判官会議の復権、裁判所情報公開法の制定などの制度改革が必要だという。
また国会については、原子力安全規制のための専門調査組織の発足などを提案している。

 学者らしい手堅い筆致でいささかかったるい読み味の本ではあるけれど、これからの原発規制のあり方を考えるうえでは有益な本ではないかと思う。
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by syunpo | 2018-02-09 20:20 | 政治 | Trackback | Comments(0)
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