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ブックラバー宣言

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自らを問い更新していくこと〜『欲望の民主主義』

●丸山俊一+NHK「欲望の民主主義」制作班著『欲望の民主主義 分断を越える哲学』/幻冬舎/2018年1月発行

b0072887_971299.jpg 本書はNHKが二〇一七年四月に放送したBS1スペシャル「欲望の民主主義〜世界の景色が変わる時〜」を書籍化したもの。六人の学者へのインタビューが軸になっている。

 登場するのは、ヤシャ・モンク(政治学)、ジョナサン・ハイト(社会心理学)、シンシア・フルーリー(政治哲学、精神分析学)、マルセル・ゴーシェ(政治哲学)、ジャン=ピエール・ルゴフ(社会学)、マルクス・ガブリエル(哲学)。

 今日、世界的に民主主義が危機に瀕していることを表明している点では、各論者ともに共通している。ただその克服をめぐっては観念的な説教調の話がならび、番組統括者の丸山俊一のコメンタリーもいささか通俗的で、「新たな次元への扉を開く」ような読後感を得るには至らなかった。 そのなかでは、最後に登場するマルクス・ガブリエルの話はエッジが利いていて、この気鋭の哲学者のことを知っただけでも読んだ甲斐があったというべきかもしれない。

 全体をとおしてトマス・ホッブズへの言及が多いのだが、ガブリエルは舌鋒するどく批判している。自然状態について挙げている唯一の喩えがアメリカ先住民の国家であることを指摘し、「『リヴァイアサン』は政治理論ではなく、大虐殺を正当化するプロパガンダのための本」とまで言い切るのは痛快。

 ですから私たちは、政府が何らかの残虐な力を管理しているという考え方を捨てなければなりません。政府は人間の残虐性や残酷性を管理するのと同じぐらい、それらを増やしています。政府は自然状態を克服しているのではありません。自然状態なんてないのです。(p215)

 そうしたホッブズ読解を示したうえで、ガブリエルは、政治とは何かとの問いに「声なき者に声を与えるもの」というジャック・ランシエールの言葉を引用して答える。そして民主主義の再帰的な特質を力説する。「民主主義とは自らを問うものなのです」と。民主主義とは何かをみんなで考えることも民主主義のうちだというわけだ。

 ついでに記しておけば、テロリズムに関する発言は欧米の状況を踏まえたものだが、日本にこそ最も当てはまるのではないかと思う。以下に引用しておく。

 ……「テロリズムの時代」とは通常よりテロリストによる攻撃が起きやすい時期のことではありません。実はヨーロッパでのテロの数は1980年代より減っているのです。テロが起きている数は少ないのですが、その「恐怖」ばかりが増しているのです。……(中略)……
 私が思うにテロリズムとは、国民を、恐怖をつくり出すことにより統治することです。それがテロリズムの意味です。(p207)

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by syunpo | 2018-02-21 09:08 | 思想・哲学 | Comments(0)
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