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ブックラバー宣言

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政治的言説としての「宗派主義」〜『シーア派とスンニ派』

●池内恵著『【中東大混迷を解く】シーア派とスンニ派』/新潮社/2018年5月発行

b0072887_18531688.jpg 昨今、中東の情勢に関して語られる場合、「宗派対立」の観点に注目されることが多い。しかし池内恵の認識は異なる。「現代の中東に生じているのは『教義』をめぐる対立ではなく、宗派の『コミュニティ』の間の対立である」とみるのだ。本書はそのような認識のもとに政治的言説としての「宗派主義」の概要をコンパクトにまとめたものである。同じ著者による『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』につづく中東ブックレットシリーズの第二弾という位置づけになる。

 近年のシーア派の台頭とそれに伴う宗派対立は、淵源をたどれば一九七九年のイラン革命に行き着く。近代化を推し進めたバフラヴィー王朝を打倒し、シーア派独自の理念による政治体制を樹立した革命である。

 イラン革命はアラブ諸国にとっては脅威を与えるものでもあった。オスマン帝国の時代に確立されていたスンニ派優位の権力構造はアラブ諸国の社会の深い層にまで根を張っていた。イラン革命でシーア派の政治的結集の理念と運動が顕在化し、それに感化された動きがアラブ諸国のシーア派のなかに現われた時、スンニ派のイラン革命への共感は恐れと敵意に変わった、という。

 中東に宗派対立を解き放ったのはイラク戦争である。スンニ派のフセイン政権が倒れ、イラクで多数を占めるシーア派が初めて国家の権力を握った。その結果、イランの影響力が強まり、「シーア派とスンニ派の宗派対立」という図式がイラク新体制発足の過程で定着していったのである。

 中東の社会に潜在していた宗派主義は、「アラブの春」を契機にさらに表面化する。それは中東での細分化した帰属意識の拠りどころの「多くの中の一つ」である。その意味では「アラブの春」の後に現われたのは、自由・民主主義への収斂でもなく、文明間の衝突でもない。それは「まだら状の秩序」と呼ぶべきものであった。

……宗派対立は一方で社会の低層から、他方で権力の上部から煽られていく。宗派主義は、「味方」の範囲を規定して動員するためにも、「敵」を名指すためにも、同様に都合の良い、有効な言説であることが、証明されていった。(p133)

 本書は、宗派対立を宗教的観点でのみ見ようとする一般的な傾向を是正し、意味のある議論へと変えていくうえでの良き入門書といえるだろう。
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by syunpo | 2018-06-28 18:57 | 国際関係論 | Comments(0)
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