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「民族の触角」となり得ているか〜『「右翼」の戦後史』

●安田浩一著『「右翼」の戦後史』/講談社/2018年7月発行

「民族の触角」となり得ているか〜『「右翼」の戦後史』_b0072887_19281930.jpg 昨今、日本政治の右傾化は話題にされることが多いのだが、本書では右翼組織そのものの活動にスポットをあてる。その戦後史を記述するにあたっては、時代を大きく二つに区分けした。一つは戦後から七〇年安保闘争まで。もう一つはそれ以降の新右翼台頭の時代。

 第二次世界大戦における日本の敗北は、同時に右翼の自滅でもあった。戦後の占領政策で、右翼は「戦前の遺物」としていったんは表舞台から引きずりおろされた。しかし国家権力の暴力装置としての役割を与えられた右翼は息を吹き返して「反共」の旗を掲げる。一部は暴力団ともつながりを持ち、威嚇と恫喝の右翼イメージを定着させた。
 しかし安保の季節が過ぎて左翼の勢いが衰えると、右翼もまた方向を見失う。そこへ「反共」に代わる新たなテーゼが生まれた。「改憲」である。一部の右翼はこれを合言葉として草の根の活動に活路を見出す。その運動は現在進行中であり、右傾化と呼ばれる時代思潮を作りあげることには一定の成果を得たともいえる。そこからさらに排外思想に基づく「ネトウヨ」層が誕生する。

 本書の記述を大雑把にまとめると以上のようになる。もちろんその流れは右翼内の諸勢力による複線的な活動の軌跡として顕在化してきた。その意味では右翼と一口にいっても、多様な系譜のあることがあらためて理解できる。

 本書では〈伝統右翼〉〈行動右翼〉〈任侠右翼〉〈新右翼〉〈宗教保守〉〈ネット右翼〉などに大別されているが、スローガンや活動の中味をみると、右翼間でも真っ向から対立するケースは少なくない。
 たとえば、対米政策に関しては〈行動右翼〉や〈宗教保守〉が親米路線をとるのに対して〈新右翼〉は対米自立を大きな指針の一つに掲げている。また現在の〈ネット右翼〉は嫌韓嫌中の感情を露わにしているが、そのような民族差別を強く否定する右翼団体も少なからず存在する。テレビの討論番組にもよく出ていた故野村秋介もマイノリティに対する差別を許さなかった一人だ。

〈宗教保守〉系の組織として日本会議の活動にも多くの紙幅が費やされていて、地道で継続的な運動による「成果」を指摘している点では、菅野完の『日本会議の研究』と同様である。改憲運動などに関しては自民党も今や日本会議が主導する「右派大衆運動」を無視できなくなった。「大衆運動は、数百台の街宣車にも勝る」のだ。もっとも、本書ではそれと同時に神社界の全体主義化を嘆く宮司の声を拾うことも忘れていない。

 著者の安田浩一にはこれまでにも右翼や保守思想を題材にした著作がいくつかある。本書は長い取材活動の蓄積を感じさせる労作で、戦後右翼の概略を知るには格好の本といえるだろう。
by syunpo | 2018-09-26 19:45 | ノンフィクション | Comments(0)
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