●青木理著『情報隠蔽国家』/河出書房新社/2018年2月発行 現役自衛官や元・公安調査官のインタビューを軸にしたルポルタージュが前半に収録されていて、それらが本書のメインコンテンツといえようか。 前者は、防衛省情報本部に配属されていた時に起きた情報漏洩問題に巻き込まれた顛末を聞き出したもの。後者は、公安調査庁のトンチキな活動ぶりを暴露をしたものである。それぞれに生々しいファクトを伝えて読み応え充分。 防衛省の情報漏洩問題とは、二〇一五年、参議院での安全保障関連法制に関する共産党議員による質問に端を発する。自衛隊の統合幕僚監部が法案の成立以前に米国側と共同作戦などについて検討を始めていたことを追及したものだった。その際に共産党が独自入手した文書が示されたのだ。政府は文書そのものの存在を否定。その一方で省内では「漏洩元」を探る捜査がひそやかに進められた。そこで「犯人」に仕立てられた現役自衛官に直撃取材を行なったのである。 国会で暴露され問題化した案件について、情報を隠蔽する一方で、見せしめ的に特定の誰かを証拠不充分なまま懲らしめるという官僚機構の矛盾。同時にその陰湿な体質を抉り出したジャーナリスティックな文章といえよう。 元公安調査官の単独取材をもとにしたルポの方も多くの問題点を提供してくれる。 公安調査庁は一九五二年、破壊活動防止法の制定に伴い法務省の外局として設置された行政機関。ここに登場するのはもともとは共産党や旧ソ連関係の情報分析などを担当してきた人物である。その後、国際テロ関連の調査に関わるようになった。主要な仕事はムスリムの監視。そうこうしているうちに当人がムスリムに改宗したというのだ。イスラム法学者の中田考との出会いが大きかったという。ミイラ取りがミイラになったような話だが、案の定、上司からは嫌がらせを受け、退職に追い込まれた。その顛末を通して、公安調査庁という役所のアナクロぶりや無能ぶりが暴露されている。公金の無駄遣いというなら、こういう組織の存在自体が議論の俎上に載せられるべきではないかと思わせる。 ただし、それ以外のコラム的な短文は論旨には異存はないものの、いささか定型的な政権批判がつづき、私には少々退屈だった。
by syunpo
| 2019-06-20 18:30
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