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小さな言説に対する苛立ちを言語化する〜『新・目白雑録』

●金井美恵子著『新・目白雑録 もっと、小さいこと』/平凡社/2016年4月発行

b0072887_09204293.jpg「その時々の時代の大文字のニュースや出来事の周辺で書かれた様々の小さな言説に対する苛立ち」にアイロニーをまぶして言語化したエッセイ。その執拗な絡み方とあいまって今時のSNS界隈では最も嫌われそうな芸風だが、私はそれなりに楽しく読んだ。

 いとうせいこうの『想像ラジオ』を皮肉っぽく寸評し、磯田道史が新聞に書いた書評文をやり玉にあげる。
 片山杜秀が『砂の器』に寄せた批評に対しては、松本清張の原作を読んでいないことを推測してやはり揶揄めいた論評を加えることになる。

 映画『ローマの休日』のアン王女に扮した森村泰昌のセルフポートレイト作品を貶すあたりはかなりマニアックな考察を展開している。森村の扮装はサマーウールのスカートで霜ふりのピンク。……だがそもそも『ローマの休日』はモノクロ映画なのだから、カラー写真なのはおかしい。映画の中でヘップバーンが着たフレア・スカートはカシミアのグレーかブルーと考えるのが、五〇年代のファッションを考えれば「常識」だという。

 お世辞にも名文とは言い難い文体で紡がれるクリティカルな言葉は読者によってはっきり好悪が分かれるだろう。単なる言いがかりじゃないかと思われるような箇所もなくはないけれど、文化的な表層から始まったはずの森村批判からブランド人気の裏に潜む社会的貧困の問題にも話が及んだりするから油断ならない。

 政治の質が劣化したあまり、小説家やアーティストまでが優等生的に大きな問題に立ち向かうことを要請されるような時代、あるいは東浩紀のいう「学級委員長」的なインテリの言説が目立ってしまう時代にあって、「小さいこと」に拘泥した文章芸に触れるのも悪くない。

by syunpo | 2019-06-29 09:23 | 文学(小説・批評) | Trackback | Comments(0)
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