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コミュニズムならぬ「コ・イミュニズム」を〜『世界史の針が巻き戻るとき』

●マルクス・ガブリエル著『世界史の針が巻き戻るとき 「新しい実在論」は世界をどう見ているか』(大野和基訳)/PHP研究所/2020年2月発行

コミュニズムならぬ「コ・イミュニズム」を〜『世界史の針が巻き戻るとき』_b0072887_15141837.jpg「新しい実在論」で世界的に注目されている哲学者マルクス・ガブリエルが日本の読者のために語りおろした談話を収める。今、世界が直面する五つの危機──価値の危機、民主主義の危機、資本主義の危機、テクノロジーの危機、表象の危機──を克服するうえで重要になる哲学が新しい実在論だというのだ。

 ガブリエルの愛読者にはさして目新しいことが語られているわけではない。新しい実在論の解説はもちろん、自然主義への厳しい批判や(あまり賛同できないが)インターネット規制の必要性を訴えているのもすでにおなじみの御意見である。

 資本主義の危機を論じるにしても、ガブリエルの議論にあっては資本主義そのものは世界の前提条件であることに変わりはない。たとえ「危機」にあっても、それを放棄するのではなく、あくまでも資本主義を修正することに力が注がれるのである。本書ではそのビジョンを「co-immunism(共に免責し合う主義)」と呼んでいる点は注目すべきかもしれない。

 我々にはcommunism(共産主義)よりもco-immunismが必要なのです。これはペーター・スローターダイクから借りた表現で、彼はまったく別の意味で使っていますが、私がここで想定するのは「すべての人、社会システム、グローバル社会の一員、誰もが──そこにはもちろん国民国家も含まれます──協力のモデルに基づいて動く」という意味です。京都学派の誰かも似たような思想を持っており、当時はcooperationism(協同主義)と呼ばれていました。それもいい考えだと思います。(p135)

 ただし、その「コ・イミュニズム」の具体的な内容についてはいささか陳腐な印象を拭えない。それは倫理資本主義とも言い換えられるものであるのだが……。

 ……とやかく言わずすべての企業に倫理の専門家を雇わせて、資本主義を修正すべきです。企業には数学モデルの専門家がいます。ですから数学的思考や統計的思考はどの会社でも十分にできています。でも、倫理学者はどこにいるのか? ゼロです。(p136)

 そのようなやり方で本当に倫理資本主義なるものが実現できるのかどうか。というか倫理資本主義が資本主義の危機を克服するのに本当に有効であるのかどうかさえ疑わしいと私は思う。

 ガブエリルが厳しく批判しているポストモダニズムを超えるものとして新実在論やその行動理論である新実存主義が主張されているのだが、私にはその説得力を充分に感じ取ることはできなかった。

by syunpo | 2020-06-03 20:00 | 思想・哲学 | Comments(0)
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