●川淵三郎著『虹を掴む』/講談社/2006年6月発行
日本サッカー協会キャプテン・川淵三郎の「現代進行形の回想録」。ワールドカップ開催にあわせて刊行した講談社の商売上手に乗せられて、思わず手にとった。著者自身のサッカー人生、Jリーグ発足とその後の苦難と再興、日本代表の成長、代表監督ジーコへの思い……。各章のサブタイトルが「七転八起」だの「堅忍不抜」だのと、どこかの力士の口上を思い出させもするが、その語り口はあくまで熱い。 Jリーグとは、単にサッカーのプロ化を目指したものではなく、日本のスポーツ文化を根底から変革していく壮大なプロジェクトであるということ。そうした理念は、すでにJリーグ開幕時からマスメディアを通じて喧伝されてきたことだが、あらためてJリーグ初代チェアマン自身によって記述されたことは、それなりに意義深いといえる。 Jリーグ発足にあたっては、先行するプロ野球界を「反面教師」としたことが明確に述べられている。一企業の思惑によって左右されるリーグ運営であってはならない、サッカーが企業の宣伝広告の材料となってはならない……などなど。そうした問題で事あるごとに対立した読売のドン・渡邉恒雄との確執についても詳しく言及されていて、楽しめる。 日本代表の歴代監督に関する記述にもかなりの紙幅が割かれている。更迭劇など生々しい挿話を織り込みつつ、「歴代の監督にはその時代ごとの役割があったように思えてくる。オフトにはオフトの、加茂には加茂の、岡田には岡田の、それぞれ監督としての意味があった」と総括する。 日本サッカー界の中枢を歩んでいる著者ならではの具体的な語りに促されて、サッカーに関心のある読者なら一気呵成に読み終えることだろう。 もちろん当事者故の弱点も、本書にはある。ここで言及されている出来事の関係者の大半は存命中である。当然、それなりの配慮がなされていることがうかがい知れる。また日韓共同開催で決着したワールドカップ招致運動の、政治家を巻き込んだ舞台裏の生臭い暗闘など、ネガティブな話題は周到に回避されている。現場にあれこれ口を出す自分のやり方にあまり自省の様子が見られないのも、やや疑問の残る点ではある。 今回のワールドカップにおける日本代表の成績は、本書で述べられたジーコへの熱い思いに冷水を浴びせるような結果になったのは残念である。チマタでは、ヒステリックな川淵辞めろコールが渦巻いているが、そういう時だからこそ、川淵キャプテンの言い分に触れてみるのも悪くはないだろう。本人の言うとおり、代表チームを強くすることだけが、日本サッカー協会の仕事ではないのだから。 同じ話題が繰り返されたり、書き言葉と話し言葉が混在するなど、ゴーストライターの手抜き仕事も散見されるが、本書を楽しむうえで障害になるほどではない。
by syunpo
| 2006-06-26 19:46
| スポーツ
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