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ブックラバー宣言

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新時代の経済原理〜『ウィキノミクス』

●ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウィリアムズ著『ウィキノミクス〜マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』(井口耕二訳)/日経BP社/2007年6月発行

b0072887_20283384.jpg 「ウィキノミクス」とは、世界中の不特定の人たちがフラットなネットワークをとおして協働するような生産形態またはその原理をいう。そこでは階層型の指揮命令系統は存在せず、参加者の自発的な秩序形成が核を成す。
 その四大原則として、著者は「オープン性」「ピアリング」「共有」「グローバルな行動」を挙げている。その具体的成果は、ネット上の百科事典「ウィキペディア」、オペレーティング・システム「リナックス」などにみることができる。

 ウィキペディアの前身も当初はトップダウンの階層構造をとり、学者や専門家に報酬を支払って事前承認した記事だけを公開していた。しかし、創始者はその非効率を知って、一九九五年、参加意欲さえあれば誰でも参加できるオープンな形でやり直しを図る。その後の急成長ぶりはネットユーザーなら誰もが知っていることだろう。
 現在、ウィキペディアは数え切れないほどのオンラインボランティアが項目を執筆し、編集し、継続的にモニタリングを行なっている。百万人をこえる登録ユーザーのうち、十以上の項目に関わったのは、十万人ほどだという。

 もちろん、ウィキノミクスの成果は、何もネット上に限られた話ではない。
 経営危機に瀕していた金鉱山会社ゴールドコープ社が自社の地質データを公開して新鉱脈の発見を低コストで成功させ甦った話、ボーイング社がオープンプラットホームを活用して六大陸のパートナー企業と協創し新型機を製造した話……などなど具体的な成功例をふんだんに盛り込んで、ウィキノミクスの可能性が生き生きと提示されるのである。

 ウィキノミクスの四大原則ーーオープン性、ピアリング、共有、グローバルな行動ーーは、いずれも、企業管理職にとって唾棄すべきものと感じられるかもしれない。しかし、本書で繰り返し示したように、この四大原則は前代未聞のスケールで革新を推進し、富を形成する力となりうる。それだけでなく、科学的な探求を行い、文化を創造し、情報を伝達し、教育を行い、そして、コミュニティや国家を統治運営する方法までも変えるほどの力がある。(p429)

 記述に繰り返しや重複が多く、その分を整理すればもう少し読みやすく薄い本になっただろう。その点が惜しまれる。だが、ビジネスマンはもちろん人間社会の成り立ちに少しでも関心のある者ならば、読んでおいて損はない。

 クリフォード・ストールの駄本『インターネットはからっぽの洞窟』から十年、時代は明らかに進化したのだ。
 もちろん、ウィキノミクスにも問題点や克服すべき課題は存在する。それは、自由闊達なコミュニティが宿命的に孕む欠陥であるが、その欠陥故に原理そのものが否定されるべきでもない。
 本書は、新たな時代の新たな経済原理を示した本である。
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by syunpo | 2007-09-11 20:34 | ビジネス | Comments(0)
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