●島田雅彦著『快楽急行』/朝日新聞社/2005年6月発行
朝日新聞土曜版「be」紙面に連載したエッセイを中心にまとめたものである。一つの文章が見開き二ページに収められ、たいへん読みやすい構成になっている。オビのうたい文句をそのまま記せば「清く貧しく美しい全ての人々に不惑にして惑う文豪が送る目からうろこの快楽追求指南」の書。 「快楽追求」というくらいだからリラックスした雰囲気が基調をなし、当然のごとく猥談を織り交ぜつつ世相講談風のトピックスも取り上げてそれなりに面白く読ませる。少し前に書かれた文章だが、“賞味期限”の切れた皮相的な内容のものはほとんどない。 スパイスの効いた簡潔なアフォリズムに島田の本領が発揮されているというべきか。 病人に向かって健康を説くのは無神経だが、病の中にも快楽を見つけよ、といえば励ましになる。(「毒か薬か」p8) フランス人やイタリア人の食道楽ぶりを最もよく示すのはフルコースの食事の最後に出てくるチーズである。……(中略)……食品に限らず、政治や教育や制度においても、目指すべきは発酵であり、腐敗ではない。両者の区別がつかなければ、嗅覚はまともに働いていない。(「鼻の曲がるチーズ」p20〜21) どんな薬よりも痛みの方が肉を深くえぐる。 同じようにどんな言葉よりも苦悩の方が深く心に突き刺さる。 痛みに効く薬は飲みづらく、苦悩に効く言葉は難解である。けれども、誰よりも傷ついている者、悩みの深い者は飲みづらい薬や難解な言葉が必要なのである。(「詩を書くこと」p31) 礼儀は理性の産物だが、悪態は感情の発露である。どちらも理論はいらないが、作法はある。(「悪態」p52) 練習をいくらやっても、練習がうまくなるだけだ。本番は百の練習に勝る。(「本番に勝る練習はない」p138) 資本主義は最も合理的に金儲けした者がよい信者になるような宗教である。(「金になるか、森になるか」p220)
by syunpo
| 2008-01-12 17:00
| 文学(小説・批評)
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