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ブックラバー宣言

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日本語ナショナリストとして〜『越境の声』

●リービ英雄著『越境の声』/岩波書店/2007年11月発行

b0072887_1114378.jpg 本書のあとがきにリービ英雄は書いている。「現代の表現者は皆、異言語に身をさらしてきたのだ。そのことにぼくは確かに触れた、という発見の高揚から、この一冊の本は生まれたのである」と。

 米国の大学で日本文学を教えていた立場を離れて、日本に定住し、日本語で小説を書く「越境」的作家である著者の声が、本書のなかでこだましている。これは秀逸なる現代文学論であり、さらにそのワクを越えた現代社会に関するクリティカルな書物といえる。

 前半は、文学者との鼎談や対談、後半には「越境」をめぐるエッセイが数編収録されている。対談の相手を務めているのは、多和田葉子、水村美苗、青木保、莫言、大江健三郎。
 多和田、水村との対話では、異言語体験と文学の関わりが切実な問題意識のうえにたって語られて大変興味深い。書き言葉、たとえば万葉集に新鮮な息吹を感じとったというリービ英雄の日本語論は、私たちにあらためて日本語で思考し書くことの意味を問いかけてくる。水村はそれを受けるように、音声言語と表意言語が共存し且つ音声文字が二種類ある日本語の表記システムの面白さを指摘する。
 日本語そのものに対する強い関心は、今日、プロの書き手でさえもしばしば喪失しているのではないかとあらためて感じさせられた。

 エッセイは、米国における同時テロ事件に関連したものと、中国・台湾と自身との関係を綴った濃密な文章から成り、いずれも著者の小説を読む解くのにも一助となるような内容である。
 とりわけ『ヘンリーたけしレウィツキーの夏の紀行』を書くモチーフになった中国の開封、シルクロードを経て中国にたどりつきそこに定住したユダヤ人の痕跡を訪ねた体験を綴った「千年紀城市に向かって——中国人になったユダヤ人を探す旅」は、読者をも悠久なる想像の旅へと誘って深い余韻を残す。
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by syunpo | 2008-01-31 11:05 | 文学(小説・批評) | Comments(0)
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