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ブックラバー宣言

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歴史リスクを軽減する〜『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』

●熊谷徹著『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』/高文研/2007年4月発行

b0072887_18592142.jpg ナチスの犯罪行為に対して、戦後ドイツはどう対処しようとしたのか。著者は冒頭に述べている。

 ドイツ人は道義的な責任感から過去と対決している。同時に彼らは、「歴史が今日の政治、経済活動に悪影響を及ぼすリスク」を減らしてきた。(p5)

 本書は、そうした認識のうえにたって戦後ドイツの「過去との対決」を概観したものである。政治・教育・司法の場でのそれぞれの取り組みをみた後、民間の活動を紹介し、最後にネオナチの台頭など現下のネガティブな状況や今後の課題などについて言及している。
 著者は元NHK記者で、現在はドイツ・ミュンヘンに在住するフリージャーナリスト。

 ドイツが戦後、ナチスの犯罪を追及するにあたっては「集団の罪」を否定して「個人の罪」として取り扱ったことはよく知られている。これはヤスパースの「罪責論」とも関連しているものと思われるが、本書ではそうした倫理・思想レベルでの理論武装のあり方には深く立ち入らず、もっぱら目に見える形で戦後のドイツ社会がどのような試行を重ねてきたかに記述の重点をおいている。
 討論を主眼にした歴史教育や近隣諸国との共同教科書の作成、プロテスタント系のNGO「償いの証」の活動、フォルクスワーゲンの賠償や情報公開の実践など、大変興味深く読んだ。

 また、二〇〇〇年にドイツが連邦政府と企業との共同負担で賠償基金「記憶・責任・未来」を創設した際、当時のシュレーダー首相が「この基金の最大の目的は、被害者の苦しみを和らげ、正義を実現することです。しかし、ドイツ企業にとって、法的な安全性を実現する(訴訟やボイコットの標的になる危機を減らすこと)という二次的な目的もあります」と率直に述べたことも紹介されていて、ドイツが官民をあげて「歴史リスク」の低減に取り組んできたことがよくわかる。

 熊谷自身が「欧州とアジアを単純に比較できない」と最初にことわっているように、ドイツの試みをただちに規範的とみなすわけにもいかないとは思うが、しかし、日本が学ぶべき点が少なくないことも確かであろう。
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by syunpo | 2008-02-04 19:06 | 国際関係論 | Comments(2)
Commented by go_n_ta at 2008-02-26 22:18
ご紹介の本に触発され、同じ著者の「びっくり先進国ドイツ」 (新潮文庫)を読んでみました。「ドイツは過去とどう向き合って・・・」を支える民族性・社会制度の実況中継本です。
ドイツは、失業率が常に10%、勤労者の平均年収は338万円(2002年)と低く、給与の40.6%が税金と社会保険料として控除される。出生率が低く、離婚率は高い。東ドイツ統合以降、経済グローバル化の荒波に苦戦している。
ネオナチ台頭の背景事情を垣間見ることができました。どこの国も、一筋縄ではいきませんね。
Commented by syunpo at 2008-02-27 11:47
go_n_taさま、
『びっくり先進国ドイツ』は、本書がAmazonから届く直前に書店でみかけて「こんな本も書いておられるのか」と気にとめていた本です。ドイツは、東西国家の統合という難題を経験し、戦後処理(補償)の問題が社会経済情勢とも絡んで複雑化していることは想像がつきますが、是非、『びっくり……』の方も読んでみたいと思います。
熊谷徹氏の著作は、ネット上でのgo_n_taさまとの出会いがなければ、手にとることはなかったかもしれません。感謝申し上げます。
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