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ブックラバー宣言

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人類の“知的営み”の歴史〜『憲法9条の思想水脈』

●山室信一著『憲法9条の思想水脈』/朝日新聞社/2007年6月発行

b0072887_19153211.jpg 日本国憲法第九条は、戦後の廃墟の中から突然生まれてきたのではなく、世紀を越え、国境を越え、脈々と流れてきた平和・非戦思想の到達点にあるものである。本書は憲法九条を世界の思想史において位置づけ、関連する思想水脈をたどったものだ。

 サン・ピエールの『ヨーロッパ永久平和のための案』、ルソーの永久平和論、カントの『永久平和のために』をはじめ、小野梓の世界大合衆政府論、植木枝盛の無上政法論、西周の永久平和論、内村鑑三の戦争絶対廃止論や種々の非戦論などを概観した後、それらの思想を受けて憲法九条が具体的にいかなる形で成文化していったのかを跡付ける。
 平和憲法の条文は与えられた面と自主的に選び取った面の双面性のあることが本書によって導き出されるのである。

 非戦思想や平和主義的な考えは、ややもすると現実主義の言説の前に屈服させられ、しばしば夢想と嘲られてきたかもしれないけれど、これまで夢想と斥けられてきた思想にこそ、私たちが今後の世界を構想していくための思想的な沃野が伏在しているかもしれない、と山室はいう。

 手堅い筆致による教科書風の記述に、あるいはカッタルさを感じる読者もいるかもしれないが、押しつけ憲法だの理想論だのと十年一日のごとく繰り返される憲法論議に広汎な視野を与えてくれる良書であることは間違いない。
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by syunpo | 2008-02-15 19:24 | 憲法・司法 | Comments(2)
Commented by go_n_ta at 2008-02-26 22:28
法学部では、かかる「思想的水脈」を深く教えません。薄っぺらな解釈論をなぞっただけで、司法試験に合格することができます。
この「試験に出ない憲法」が新鮮で、感動しました。
どこかの知事さんも読んでみたらと思うのですが、きっと「机上の空論」の一言でしょうねぇ。猫に小判、お江戸・浪花・宮崎の知事に憲法。
Commented by syunpo at 2008-02-27 11:48
go_n_taさま、
司法試験というのは、法の実務家を育成するための関門でしょうから、解釈論に重きがおかれることは何となく察しがつきます。
法律の読みをいかに血の通ったものにしていくかという時に、本書のような認識が重要になってくる、というところでしょうか。
「どこかの知事」さんの言動は、直接、その決定に拘束を受ける民の一人として、いささか懸念を感じつつ見ているところです(苦笑)。
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